アルメニア共和国の首都。人口124万8700(1999)。1920年に首都となり、1936年まではエリバニЭривань/Erivan'とよばれた。カフカス地方南部のアラクス川の広い谷に位置し、その支流ラズダン川に沿う。市域は河岸段丘から火山性の山脈の山麓(さんろく)に広がり、標高は850~1300メートル。北西にアラガツ山、南はアラクス川谷を隔てて名峰アララト火山(トルコ領)を望む風光明媚(めいび)な高地にある。月平均気温は、1月4.2℃、7月24.8℃。市域は7区よりなる。鉄道支線に沿い、二つの空港がある。世界でも有数の古都で、紀元前7世紀にエレブニ城があった所とされ、市名はこれに由来する。17世紀からペルシア領、ついでエレバン・ハン国の中心地となった。隊商路の中心でもあり、手工業と商業で栄え、1828年にロシアに併合された。
市は、「セバン湖―ラズダン川カスケード」(同一水系の水力発電所集団)にかかる数座の発電所や、郊外の大型火力発電所から電力の供給を受けて、工業を発展させた。電気機器、ケーブル、自動車、ポリビニル・アセテートなど近代工業製品のほか、ぶどう酒、ブランデー(アララト印はとくに有名)、石材、たばこ、工芸品など伝統品の生産も知られている。市の中心に広場があり、これを中心とする円の内側に展開する旧市街と、その外側の北方や東方に発達した新市街とが対照的である。市街の建築物を彩るとりどりの凝灰岩、花崗(かこう)岩、大理石は、当市付近で採取されたものである。ゾラバル聖堂(16世紀末の建物で、8教会よりなる)をはじめ、アルメニア正教会に関する歴史的建築物が多い。
[渡辺一夫]
ザカフカス地方,アルメニア共和国の首都。人口110万(2004)。ザカフカス有数の工業,文化,学術の中心都市の一つ。1936年までエリバンErivan’と呼ばれた。トルコ,イランとの国境を流れるアラクス(アラス)川の左岸に広がるアララト盆地に位置し,標高850~1300m。アラクス川の支流ラズダン川が市を貫いて南に流れ,北西にアラガツ山(4090m)がそびえ,南にアララト山(トルコ領)をのぞむ。創建年代は不詳であるが,前782年ウラルトゥ国の要塞エレブニが創設されたことを伝える楔形文字の碑文が知られている。13世紀に地方の経済・政治の中心として発展をはじめ,17世紀には隊商交易の中心として栄えた。多年にわたるイラン,トルコ,ロシアの角逐を経て,1826-28年のロシア・イラン戦争によってロシアに併合された。革命前はエリバン県の県都。エレバン大学,古代・中世以来の科学・芸術の写本類1万点以上を収蔵するマテナダランMatenadaranのほか,数多くの博物館がある。古い歴史と文化をもつこの都市が工業的発展,巨大都市化したのは近年のことであり,今日の工場の98%は十月革命後(約半数は1950年以降)に創設されたもの。共和国の工業のなかで占める位置は圧倒的である。
執筆者:高橋 清治
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