スペインの小説家。サラマンカとアルカラで医学を学んだのち役人となったが,職権乱用と負債のため2度にわたって入獄。1608年愛人と共にメキシコに渡り,そこで客死した。代表作は,17世紀のスペインで最もよく読まれた二部作《グスマン・デ・アルファラーチェGuzmán de Alfarache》(1599,1602)であるが,これはいわゆる〈悪者小説(ピカレスク)〉の典型と目されるもので,ピカロ(悪者)たるグスマンがスペインとイタリアを舞台に,狡知と悪徳の限りをつくして繰りひろげる冒険を自伝風に連ねたものである。作品の根底にある原罪意識と,主人公が最後に前非を悔いて真のキリスト教徒になるところから,これを当時の反宗教改革の理念の文学的表現とする解釈が,現在では最も有力である。この作品に始まる〈悪者小説〉の隆盛は,西ヨーロッパ諸国に大きな影響をおよぼし,各国にこのジャンルの傑作をもたらすことになった。
執筆者:牛島 信明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
スペインの小説家。医者の子としてセビーリャに生まれる。サラマンカとアルカラの大学で医学を学ぶ。役人として会計官などを勤めたこともあるが、しだいに無軌道な生活を送るようになり、借金や詐欺の罪で一度ならず投獄されている。1608年に家族とともにメキシコに移住したが、1613年以降の消息は不明。
代表作『グスマン・デ・アルファラーチェの生涯』(1599~1604)は、学業生活を放棄してならず者の生活に身を投じた主人公が、教訓を交えながら過去の罪深い生活を語ったもので、発表と同時に大好評を博し、各国語に翻訳され、17世紀を通して最大のベストセラーとなった。この小説は一般に、ピカレスク(悪漢)小説のジャンルを確立した作品とみなされているが、作者や、当時の読者の多くは、これを教訓的な物語と考えていたふしがある。
[桑名一博]
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