日本大百科全書(ニッポニカ) 「アークトゥルス」の意味・わかりやすい解説
アークトゥルス
あーくとぅるす
Arcturus
うしかい座α(アルファ)星の固有名。アルクトゥルスともいう。ギリシア語で「熊の番人arktouros」の意。北天で、北斗七星(おおぐま座)のすぐ後をついていくように日周運動しているため、その名があるという。中国では大角といい、日本ではいくつかの地方で麦星(むぎぼし)とよばれていた。後者は、麦刈りのころ、日没後に頭上近くで輝くことに由来する。
平均の実視等級はマイナス0.04等であるが、0.1等幅で変光している。オレンジ色の明るい星で、スペクトル型K2の巨星。天球上の位置は、2000年分点の座標で赤経14時16分、赤緯プラス19度11分である。地球からの距離は37光年。表面温度は4300K、半径は24倍。この半径は恒星干渉計で直接測定された。質量は太陽と比べて同程度かやや小さいとみられている。
アークトゥルスは高速度星で、太陽系に対する相対的な空間運動は秒速125キロメートルにも及ぶ。このうち視線方向の速度成分は秒速5キロメートルにすぎず、大部分はその垂直成分である天球上の動きとして反映され、角度で年間2.29秒という大きい固有運動を示している。アークトゥルスと太陽との距離は現在縮まりつつあるが、数千年後からは遠ざかるようになり、およそ50万年後には肉眼で見えないほど離れてしまう。
太陽と近傍の多くの星々はだいたいそろって、銀河中心の周りをほぼ銀河面に沿って円運動している。しかし、少数ではあるが、銀河面に対して大きく傾斜した細長い楕円(だえん)軌道を描く星々もある。このような列を乱して運動する星々が、太陽から見ると、高速度星として観測されるのである。高速度星は一般に古い星で、種族Ⅱに属している。アークトゥルスの大気の化学組成も、種族Ⅰの太陽などと比べて金属元素の量が少なく、種族Ⅱであることを示している。
[岡崎 彰]