恒星のうち太陽に対する空間運動速度が秒速約65キロメートル以上の星。太陽周辺の大部分の恒星は、相対空間速度が秒速20キロメートル程度である。生成原因の違いによって、逃走星(runaway star)、ハロー星(halo star)、極高速度星(hypervelocity star)が考えられている。逃走星は、連星系の進化の過程で高速度で飛び出したか、連星を形成していた相手方の星が超新星爆発して放出されたと考えられる星。ハロー星は、銀河円盤外のハローで誕生した星がたまたま太陽近傍の銀河円盤を横切ったもの。極高速度星は、前者二つと違い秒速1000キロメートルと桁違いに大きい速度を示し、銀河中心にあるとされる巨大ブラック・ホールとの衝突で加速されたか、わが銀河系と近傍の矮小銀河との衝突で加速されたか、どちらかの原因による星と考えられている。高速度星の多くはその元素組成が太陽など標準の星と異なり、重元素の欠乏を示す。欠乏度の大きな高速度矮星(わいせい)は、HR図上の位置にちなんで準矮星ともよばれる。高い相対速度を反映して、銀河系内の分布も広範囲にわたり、レンズ状の円盤部を越えてハローとよばれる楕円(だえん)体領域に及ぶ。代表的な種族Ⅱの星で、年齢は古く、一般に100億年以上であって、中小質量の矮星、巨星、水平枝星を含む。
[小平桂一・安藤裕康]
約300光年以内の太陽近傍の恒星のうち,それらの空間速度の平均(局所静止基準という)に対して,60~70km/s以上の速度をもつ恒星をいう。太陽を含めて,ほとんどの恒星は局所静止基準に対して約30km/sの速度をもち,それらの速度ベクトルは,局所静止基準を原点として対称的な分布を示す。ところが,高速度星の速度ベクトルは著しい非対称分布を示し,それらのベクトルは局所静止基準を原点として,銀河回転方向を避け,銀河回転と逆の方向に集中する。局所静止基準は約250km/sの速度で銀河回転していることから,このような現象は,高速度星が一般星に比べて小さな速度で銀河回転していることを意味する。また恒星が太陽近傍にとどまるためには限界速度があり,その限界速度を超すような速度をもった星々は,銀河系が形成される過程ですでに逃脱してしまったことを示す。高速度星の銀河系内における軌道は,一般星の軌道が銀河中心のまわりの円軌道であるのに反して,銀河中心のまわりの離心率の大きな軌道を描いている。高速度星の物理・化学量も特異性を示すことから,高速度星は原始銀河の収縮過程を知るための重要な手がかりを与えている。
執筆者:宮本 昌典
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…太陽系から見た場合の諸天体の相対速度は,太陽と似た運動をしている種族Iでは小さくて平均20km/sくらいである一方,太陽とかけ離れた運動をしている種族IIでは,大きくなるわけである。高速度星と呼ばれる速度約60km/s以上の星の大部分は,種族IIの星である。それらの銀河系中心のまわりの軌道は,銀河面に対して傾いているとともに離心率も小さくなく,かなり細長い楕円形をしている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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