中性原子,分子,遊離基などに孤立系で1個の電子が結合する際に放出されるエネルギー.負イオンから1個の電子を除くのに要する最小エネルギーに等しい.この値は,原子,分子,遊離基などが負イオンになる傾向の大小,負イオンになったときの安定度を示すもので,負イオンに関するもっとも重要な物理量である.電子親和力が正である分子の負イオンの基底状態は,孤立系で安定であり,負であればその分子の負イオンは安定に存在しない.通常,中性粒子および負イオンそれぞれの基底状態間のエネルギー差で表すが,Heのように基底状態の電子親和力が負であり,励起状態(23S)は0.08 eV の正の電子親和力をもつという例も少なくない.電子親和力の各物質についての値は,1930年代から以下に示す多様な方法で測定されてきたが,一部を除いて最近まで信頼される値は得られなかった.
(1)等電子構造系列元素のイオン化電圧の傾向を外挿する方法(原子についてのみ),
(2)量子力学的計算,
(3)結晶格子エネルギーからの算出,
(4)溶液反応の化学平衡から求める方法,
(5)電極反応の速度論的取り扱いから求める方法,
(6)電荷移動スペクトルから分光学的に求める方法,
(7)気相における電荷移動反応から電子親和力の大小を決定する方法,
(8)表面電離法(マグネトロン法),
(9)非解離共鳴電子捕獲する分子の負イオンの寿命と電子捕獲速度から算出する方法,
(10)ガスクロマトグラフィーの電子捕獲検出器を若干改良し,負イオン電流の温度依存性から求める方法,
(11)電子衝撃法により解離共鳴電子捕獲やイオン対生成で生成する負イオンの出現電圧から求める方法,
(12)負イオンに光を照射し,光電子脱離のしきい値から求める方法.
以上のうち,最後の光電子脱離はL.M. Branscombが1957年から測定している方法で,もっとも信頼されている.現在はレーザー光を負イオン線に照射し,脱離電子のエネルギーを測定する光電子スペクトル法,またイオンサイクロトロン共鳴質量分析計の共鳴部に単色光を照射して負イオンの減少を測定し,そのしきい値から求めるなど,しだいに信頼できる値が報告されるようになった.電子親和力の比較的信頼できる値(eV)としてはO 1.465,Cl 3.7,Br 3.5,およびI 3.2などがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
原子や分子が電子を引き寄せて結合し負イオンになる能力の尺度をいう。多くの元素の原子は,電子と結合して負イオンになる反応でエネルギーを放出して安定化する。そのとき,多量のエネルギーを放出するものほど安定化の度合が大きく負イオンになりやすい。したがって通常は,真空中で原子または分子が1個の電子と結合して負イオンになる際に放出されるエネルギーをもって電子親和力と定義する。最外殻電子(価電子)の数が8個(水素H,ヘリウムHeでは2個)のとき安定な電子配置となるので,ハロゲン族の原子の電子親和力はとくに大きい。しかし,すでに8個の最外殻電子をもつ希ガス元素では負の電子親和力となる。すなわち電子を付加するにはエネルギーを供給しなければならない。アルカリ土類金属でも似たような事情(s副殻が2個の電子で満たされている)があり,負の値となる。表に典型元素の電子親和力(実験値と計算値が混在)を示す。同様にして原子団やイオンの電子親和力を定義することもできる。電子親和力を直接実験で求めることはむずかしく,信頼できる値は限られている。むしろ他の物理化学的実験値から計算によって間接的に求めたり,相対的な値を用いることが多い。実験方法としては,気相の電子付加,電子衝撃による方法,気相平衡測定,イオン結晶の格子エネルギーからボルン=ハーバー・サイクルを用いる方法,電極反応を用いる方法,分光学的測定による方法などがあるが,いずれも一長一短である。
執筆者:木下 實
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
真空中で無限に引き離されていた中性の原子と電子とが互いに接近して結合し、陰イオンをつくったときに放出されるエネルギーをいう。逆に、陰イオンから電子を引き離して無限にもっていくのに必要な仕事でもある。したがって、電子親和力の大きさは、原子が電子をもらってどれだけ安定な陰イオンをつくるかの度合いを表している。しかし、かりに真空中で安定または不安定な陰イオンでも、水(一般に溶液)中(あるいは結晶中)でも安定または不安定であるとは限らない。水の中では陰イオンは水和した陰イオンになっており、これができるためには水和熱だけの発熱を伴うからである。電子親和力を実験的に求めるには、光電子放出法、電荷移動法、電子透過法などがあるが、いずれの方法も直接実験で電子親和力を求めるのは困難である。そのため量子力学的計算や、イオン化ポテンシャル補外法などの半経験的計算法で求めることが多い。なお「電子親和力」という語はアメリカの物理学者J・フランクによってつくられた。
[戸田源治郎]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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