イヌガヤ(その他表記)(Japanese)plum-yew
Cephalotaxus harringtonia K.Koch.

改訂新版 世界大百科事典 「イヌガヤ」の意味・わかりやすい解説

イヌガヤ
(Japanese)plum-yew
Cephalotaxus harringtonia K.Koch.

イヌガヤ科針葉樹。岩手県以南の太平洋側,四国,九州,朝鮮南部に分布し,高さ15m,直径1mに達することがある。葉は線形で長さ2~5cm,裏面の中脈の左右に白い気孔帯がある。直立茎上ではらせん配列し,水平枝では左右2列に互生する。雌雄異株雌花序(球花)は十字対生する数対の種鱗からなり,各種鱗には2個の胚珠がつくが,熟すのは1~2個である。種子は種衣で包まれる。雄花は7~12本のおしべからなる。種子の内乳から油をしぼり,灯油に用いた。《延喜式》にみられる閉弥(美)油(へみゆ)がそれである。ヘベヘビヘダマ,ヘッタマなどの方言名は,それと関連がある。古代遺跡からはしばしば丸木の弓,櫂が出土する。変種ハイイヌガヤvar.nana Rehd.は北海道西部以南の日本海側にみられる高さ1mほどの低木。種子は食べられる。栽植されるチョウセンマキは原産地不明の園芸品種で,高さ3mほどの直立茎をもち,葉は長さ5~10cmになる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イヌガヤ」の意味・わかりやすい解説

イヌガヤ
いぬがや / 犬榧
[学] Cephalotaxus harringtonia (Knight) K.Koch

イヌガヤ科の常緑低木または高木で、大きいものは高さ15メートル、直径30センチメートルとなる。樹皮暗褐色で浅く縦にはげる。葉は互生し、線形で長さ2~5センチメートル、幅2.5~4.0ミリメートルあり、先は急にとがり、側枝では枝の左右に2列に並び、直立する枝では螺旋(らせん)状につく。葉質は柔らかく、触っても痛くない。雌雄異株。3~4月に開花する。雄花は球状に集まって前年枝の葉の付け根につき黄色。雌花は小枝の先に1、2個つき緑色で、多数の鱗片(りんぺん)をもつ柄がある。球果は卵形または倒卵形で長さ2.0~2.5センチメートルあり、外種皮は肉質で、翌年の秋に赤褐色に成熟する。陰樹で森林下の谷側などに生える。材は建築、器具、土木、ろくろ細工などにされ、木は庭木とする。本州の岩手県以西、四国、九州に分布する。変種にハイイヌガヤがあり、低木性で群生し、基本種に比べ雌花序はほとんど鱗片をもたない長い柄がある。北海道から本州、四国にかけて分布する。枝が直立し、葉は輪生し、長い葉の群と短い葉の群があってそれが少し間隔を置いて交互に並ぶ園芸種をチョウセンマキと称し、庭木や切り枝用とする。

[林 弥栄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イヌガヤ」の意味・わかりやすい解説

イヌガヤ
Cephalotaxus drupacea

イヌガヤ科の常緑低木で日本,朝鮮半島,中国に分布する。ときには高さ 10m,直径 30cmぐらいになることがある。樹皮は灰褐色で浅くはげる。葉は線形,濃い緑色で,長さ3~5cm,下面の中肋の両側に白色の気孔帯が目立つ。雌雄異株で,3~4月頃開花する。雄花は球形に集り,多数の黄色いおしべから成る。雌花は緑色で球形または楕円体状で,数個の胚珠から成る。そのうち1~2個が成熟し,卵形または楕円体状,長さ 1.5~2.5cmの種子となる。種子は渋くて食べられないが,昔,油をとって灯火用にした。和名はカヤ (榧) に似ているが,種子が食べられず,また材質も劣るのでつけられた。日本海側の雪の多い地方では丈の低いハイイヌガヤ C. nanaがある。

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百科事典マイペディア 「イヌガヤ」の意味・わかりやすい解説

イヌガヤ

イヌガヤ科の針葉樹で常緑低木〜小高木。本州〜九州,朝鮮半島,中国の暖地の山地にはえる。葉は線形で柔らかく,互生し,裏面には縦に2条の白色気孔腺がある。雌雄異株で,雄花は黄色,雌花は緑色。3〜4月に開花する。果実は楕円形で10月ごろ成熟する。材は小細工物にする。庭木としてよく用いられるのは変種のチョウセンマキで,高さ1m内外,よく分枝して葉はらせん状に配列し,樹形はほうき状をなす。

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世界大百科事典(旧版)内のイヌガヤの言及

【カヤ(榧)】より

…暖地の森林中に散生するイチイ科の常緑針葉樹(イラスト)。社寺の境内などにしばしば大木を見る。高さ25mにもなる高木で,小枝は対生する。葉は螺生(らせい)するが横枝では2列状となり,線形で長さ1.5~2.5cm,先はとがって触ると痛い。雌雄異株で,4~5月に開花し,雄花は前年枝の葉腋(ようえき)に単生して楕円形,おしべは4輪生して多数,雌花は新枝の下部葉腋に2個ずつつく。このうち1個のみが翌年の秋に石果様に熟し,楕円形で長さ約3cm。…

【油】より

…たとえば,ワタの副産物である綿実油や米の副産物である米ぬか油,さらにはトウモロコシからのコーン・オイル,カポックからのカポック油など,いずれもこれまでは油料植物として利用されていなかった植物である。【吉田 集而】
[日本における油の経済史]
 日本では古くから食用や照明用に,魚油・木実油(イヌガヤの実)・ゴマ・エゴマなどが用いられてきた。とくに中世には,灯火用として社寺や公家が使用したため重要な商品となった。…

※「イヌガヤ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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