改訂新版 世界大百科事典 「イボ族」の意味・わかりやすい解説
イボ族 (イボぞく)
Ibo
西アフリカのナイジェリア南東部,ニジェール川とクロス川にはさまれた熱帯森林地帯に居住する部族。人口は300万人に達し,人口密度もひじょうに高い。アフリカでも最も進取の気性に富み,活力に満ちた人びととして知られ,商業活動などを通じて,ナイジェリア全土,とくに北部地方で活躍した。北部のハウサ族や西部のヨルバ族とは異なり,イボ族はもともと中央集権的な政治制度を持たず,村落連合的なまとまりしか持たなかった。本来の生業はヤムイモ,キャッサバ,タロイモなどをおもな作物として栽培する農耕であるが,部族人口に比し土地が少なく,そのため都市や他地域への出稼ぎが激しく行われた。イボ族はキリスト教の布教にともない,教育水準が比較的高くなり,商人,教育者,軍人,政府役人などあらゆる職種へ積極的に進出した。これらの事情が他部族からの反感を招く素地になったといわれている。
1967年から70年にかけてのビアフラ戦争は,石油資源をめぐる戦争であったが,イボ,ハウサ,ヨルバというナイジェリアの大部族間の抗争・対立にも根深い原因があった。ビアフラ共和国としての,ナイジェリア連邦からの分離独立の宣言は,泥沼の戦いをイボ族に強いた。国際的孤立とナイジェリア軍の包囲網により食糧供給の道を断たれ,この戦争はイボ族側の無条件降伏で終わったが,イボ族には約150万人の犠牲者が出たといわれる。戦争後,ビアフラ共和国はナイジェリアに再編入され,現在はアナンブラ州となっている。
→ナイジェリア
執筆者:赤阪 賢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報