ディクタトル(英語表記)dictator

翻訳|dictator

改訂新版 世界大百科事典 「ディクタトル」の意味・わかりやすい解説

ディクタトル
dictator

古代ローマ共和政期の公職の一つ。独裁官と訳す。軍事ないし内政の危機の際にコンスル(執政官)が指名する。ディクタトル(古名,歩兵マギステル)は騎兵マギステルを補佐に指名し,難局打開まで全市民,全公職者を命令権下におき,護民官干渉も退けたが,任期は6ヵ月を超えなかった。前5世紀の十数例,前4世紀の約40例は上記〈国務執行〉の全権を持つが,前3世紀の約20例は(前287年のホルテンシウス,前217年のファビウスその他を除き)多くが民会開催などの特定権能しか持たず,以後,跡を絶つ。前1世紀になると,スラカエサルはディクタトルを復活させ,古制にとらわれず無制約の強権を永続的に握った。前44年,カエサル暗殺の後,ディクタトルの任命は法で厳禁された。古制のディクタトルは民会選挙を経ず,同僚を欠き,馬に騎乗せず,古拙的性格をとどめるが,起源は不明で,かつてラテン人の町に存在した常置公職のディクタトルとの関係も明白でない。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ディクタトル」の意味・わかりやすい解説

ディクタトル
dictator

古代ローマの非常時の最高政務官。独裁官と訳される。起源はラテン諸市の恒常職だったが,王政廃止後のローマに取入れられ,非常時に軍政の統一権力を与えられる臨時職権となった。元来執政官 (コンスル ) と共同するものであったが次第に独立的地位を与えられ,元老院において執政官から指名され,軍事大権を有した。任期は6ヵ月に限られ当面職務が遂行されれば辞職した。その後次第に有名無実化し,イタリア内の選挙,祭典のために設置されるだけになり,前 216年以後は設置されなくなった。 L.スラ,ユリウス・カエサルのとき復活したが,本来の性格を失い,元首的性質をもつだけであった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ディクタトル」の意味・わかりやすい解説

ディクタトル

古代ローマの非常時の最高官職。任期6ヵ月以内。軍事,国政の大権を掌握コンスルが指名。前44年カエサルが終身のディクタトルとなり,帝政への道が開かれた。
→関連項目カエサルスラ

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディクタトル」の意味・わかりやすい解説

ディクタトル
でぃくたとる
dictator ラテン語

独裁官と訳すことが多い。古代ローマ共和政の官職。コンスルと異なり、毎年選出されるのではなく、おもに非常時にコンスルによって指名され、半年任期で着任した。在任中コンスル以下の官職は在職のままディクタトルに従属した。軍事を中心にして国政全般にわたる全権を掌握する官職であるところから、王権の一時的復活であるとみる説もある。この本来のディクタトルは、紀元前202年以後は任命されず、カエサルに至って彼の独裁権力の基礎に用いられたが、これはまったく新しいものである。

[弓削 達]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 世界史小辞典 改訂新版 「ディクタトル」の解説

ディクタトル
dictator

古代ローマの非常時の最高官職。独裁官と訳される。任期6カ月以内。元老院の提案でコンスルが指名,非常時の大権を持つ。第2次ポエニ戦争以降のスラカエサル(終身)のそれは,実質的にはより独裁的な別のもの。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「ディクタトル」の解説

ディクタトル
dictator

古代ローマで非常時に至上の大権を委ねられた最高官職
必要時に元老院により2名のコンスルのうち1名が任命され,軍事・司法の絶大な権能を有したが,任期は6か月を越えなかった。ポエニ戦争(第2回)で中断したが,スラやカエサルの時代に変形して復活。前44年,カエサルは終身のディクタトルとなり,帝政に近づいた。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のディクタトルの言及

【独裁】より

…マルクス主義においては,資本主義社会における政治はたとえ民主主義形態をとっていてもその本質は少数のブルジョアジーの独裁であるが,社会主義社会は多数者である労働者階級の独裁=プロレタリアート独裁であり,真の民主主義である,とする階級独裁理論がとられてきた。
[古代ローマのディクタトル]
 独裁dictatorshipの語自体は,古代ローマのディクタトル(独裁官)の制度にはじまる。共和政初期のローマでは,王政以来の立法機関としての民会・元老院のもとで,平時には2名のコンスルが任期1年で政務をつかさどり相互に職務を牽制しあうことになっていたが,貴族と平民の対立や外敵とかかわる非常時には,1名のディクタトルが任期半年で統治にあたることとされていた。…

※「ディクタトル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android