ドイツの哲学者、哲学史家。ポツダムに生まれ、イエナ、ベルリンなどの大学で学び、チューリヒ、フライブルク、シュトラスブルク、ハイデルベルク各大学の教授を務めた。哲学史家としては、各個人の思想の記述を中心とする従来の方法に対して、哲学的問題や概念の歴史的展開の諸相を重視する方法をとり、かといってヘーゲル流の観念的構成に流れぬ、真に学問的な哲学史の構築を目ざし大きな業績をあげた。これは、新カント学派中、西南ドイツ学派の代表者として、19世紀後半以来の唯物論、実証主義に対抗する彼の文化哲学者、価値哲学者としての仕事と表裏一体の関係にある。すなわち、彼は、「カントを理解することは彼を超えることである」として、従来の自然科学とその批判的基礎づけという側面に偏ったカント理解に対して、歴史や文化を対象とする「精神科学」を視野のうちに取り入れ、両科学を対象と方法の側面で批判的に位置づける形で、カントの発展的継承を試みる。自然科学は法則定立的な法則学であるのに対し、精神科学は個性記述的なできごとの学にほかならないとする彼の考えには、価値や人格の自由にかかわる事柄を時代の学的状況に即して位置づけようとする姿勢が示されている。主著に『哲学史教本』『歴史と自然科学』『哲学概論』などがある。
[坂部 恵 2015年2月17日]
『清水清訳『哲学概論』(1960・玉川大学出版部)』
ドイツの哲学者で新カント学派の一つである西南ドイツ学派(バーデン学派)の創始者。哲学史をはじめて問題史的に扱った哲学史家としても著名である。彼はカントの哲学を文化価値の哲学としてとらえた。彼によれば,哲学は実証科学のように事実を明らかにしようとするものではなく,事実としての思考や行為が正しい妥当なものであるために従わなければならない基準としての普遍妥当的な価値を明らかにする学問なのであり,こうした価値として学問,道徳,芸術,宗教を可能にする真,善,美,聖の文化価値が考えられる。また彼は学問を自然科学と歴史科学に分け,前者が普遍妥当的な法則を発見する法則定立的科学なのに対して,後者は個々の事象の独自の特徴をとらえる個性記述的事件科学であるとする。著書に《近世哲学史》(1878-80),《序曲》(1884),《哲学概論》(1914)などがある。
執筆者:関 雅美
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