地霊
ちれい
土地の精霊や神をいう。その代表的神格が地母神である。一般に、大地の神は女性神と考えられており、アフリカやアメリカ、ポリネシアなど各地に、大地(女神)が天(男神)と結合して自然界の万物を産み出したとする起源神話が伝わっている。地母神の姿は、胸部や生殖器など女性性が強調されることが多く、多産や豊穣(ほうじょう)の機能と結び付いている。とくに農耕民文化にはその傾向が強く、作物の豊穣を祈って、食物から人までさまざまな供物による供犠(くぎ)やオルギー(乱飲乱舞などの宗教的狂乱)的な儀礼が行われる。たとえば、インドのコンド人では、地母神を表すいけにえが切り刻まれて、その肉は地中に埋められる。また、古代メキシコでは、地母神はトウモロコシの女神であり、多くの口や胸を有したカエルの姿でも表されたが、その祭儀では、女神に見立てられた女性が殺されたといわれる。そのほか、耕作の開始や建物の建築の際には、地霊の怒りを招かないために、供物を地中に埋めるなど入念な供犠が行われる。また、地震は、地中の動物や死霊、そして地母神などの動きによって生じるとの信仰も広く認められる。
[白川琢磨]
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ちれい【地霊】[戯曲・書名]
《原題、〈ドイツ〉Der Erdgeist》ウェデキントによる戯曲。1895年発表。1898年初演。「パンドラの箱」とあわせてルル2部作と呼ばれ、ベルクの最晩年のオペラ作品「ルル」の原作として知られる。
中村武羅夫の長編小説。女性雑誌「婦女界」に、昭和2年(1927)から昭和4年(1929)にかけて連載。昭和5年(1930)刊行の「長篇三人全集」第1巻に収録。好色な伯爵と無理やり結婚させられた女性が自立していく姿を描く。
ち‐れい【地霊】
大地に宿るという精霊。「地霊信仰」
[補説]作品名別項。→地霊
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地霊
ちれい
Der Erdgeist
ドイツの戯曲。4幕。 F.ウェデキント作。 1895年に発表され,『パンドラの箱』 Die Büchse der Pandora (1904) とともに2部作をなす。人間の自然な本能的衝動を抑圧する社会の偽善性を批判した作品で,97年にミュンヘンで初演。 A.ベルクのオペラ『ルル』 (3幕) はウェデキントのこの2作をもとにしたもので,未完であるが,1937年に初演,その後もしばしば上演されている。
地霊
ちれい
Erdgeist
アニミズムの一種で,ある土地に宿り,その土地を所有したり,その豊穣を司ったり,またそこに住む人や物を守護したりすると信じられている精霊をいう。地霊に対する信仰はさまざまな形をとるが,世界的に広く認められる。
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ち‐れい【地霊】
〘名〙
① 大地の精霊。大地がもっていると考えられる
霊魂。また、単に大地。
※中臣祓訓解(12C後)「天霊曰
レ神、地霊名
レ祇、人魂号
レ鬼。所謂天神地祇人鬼是也」 〔韓詩外伝‐巻八〕
② 土地柄が霊妙にすぐれていること。〔
王勃‐秋日登洪府滕王閣餞別
序〕
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ちれい【地霊 earth spirit】
大地に宿り,農耕をはじめ人間生活全般を支配すると信じられた霊的存在。古代において大地を基盤とする人間の営みは,その場所に宿る地霊の承認と保護を得てはじめて可能になり,そのため各季節の節目に行われる豊穣祭など地霊との交流は人々にとって最も重要な関心事であった。地霊の働きには二面性があり,人々に土地を耕させ恵みを授ける慈愛の性質と,それとは逆に地震や干ばつをひき起こす過酷な性質とが同居する。前者はみずからの肉体を傷つけて子孫を養う地母神として,後者は地霊に従わぬ人間を襲う怪物や荒ぶる神として発現する。
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
世界大百科事典内の地霊の言及
【竜】より
…アリストテレスなどの記述に,翼ある竜はエジプトやエチオピアに産し,巨大なヘビ型の竜はインドに住むとあるが,前者は神としての有翼蛇,後者はニシキヘビの姿がもとになっているらしい。 強大な獣の属性を完備し,地中の秘密ないし生産力を独占する竜は,権力や豊穣の象徴であり,授精力をもつ地霊の性格をあらわす。その超自然的な力は畏敬の対象であり,古代ローマでは軍団が竜の旗を掲げ,西ヨーロッパ,とくにイギリスでは王家の紋章に用いられた。…
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