改訂新版 世界大百科事典 「ウッタルプラデーシュ」の意味・わかりやすい解説
ウッタル・プラデーシュ[州]
Uttar Pradesh
インド北部の州。ガンガー(ガンジス)川中流域のインド大平原に広がる。人口1億3911万(1991)は同国第1位,面積29万4000km2は第4位という巨大な州。州都はラクナウ。2000年11月,この州の北部丘陵地帯はウッタラーンチャル州として分離された。分離後の人口1億6620万(2001)。新州(暫定州都デヘラー・ドゥーン)は面積6万3157km2,人口848万(2001)。前10世紀ころには,北西のインダス川方面からインド・アーリヤ人が進出し,インド亜大陸支配の核心地域を形成しはじめた。前7世紀には,パンチャーラ,コーサラ,カーシーなど5国が成立し,互いに勢力を競った。以来,幾多の王朝の支配下に入り,ヒンドゥー教徒王朝期(12世紀まで),ヒンドゥー教徒・イスラム教徒王朝抗争期(18世紀まで),イギリス植民地期(1947まで)を経て,多様なインド文化の凝縮した地域となった。釈迦生誕の地ルンビニーは,国境の町ナウガルNaugarhから数kmネパールに入った村であり,釈迦入滅の地クシナガラは,ゴーラクプル市の郊外にある。古代ヒンドゥー王朝時代以来の聖都ワーラーナシー(ベナレス)は,州の東部に位置し,ヒンドゥー諸神の御所の一つとあがめられる聖地リシケーシュRishikeshは,ガンガー川上流,州の北西端のヒマラヤ山中にある。イギリス植民地化を決定づけたセポイの反乱(第1回反英独立戦争,1857-58)勃発の地メーラトは州の西端に,また,インド軍降伏の地ラクナウは,州の中部にある。共和国成立後は,ネルー,シャーストリ,インディラ・ガンディーなどの歴代首相を生み,憲法に定めた国語ヒンディー語の中心州として,政治や文化に強い影響を与えている。
気候は,亜熱帯モンスーン域にあってきわめて過酷である。夏(3~5月)はルーと呼ばれる南西からの熱風が吹き,5月上旬の盛夏には45℃を超える日も数日あり,冬(12~2月)には,西から寒気団が来襲して0℃を下回ることもある。年降水量は,北西から南東に向かって州の中央を1000mmの等値線が通り,これよりヒマラヤ山脈寄りは1600mmまで上昇し,逆にデカン高原に向かっては700mmまで減少する。しかし,降水は6~9月の雨季に集中し,しかも,ヒマラヤ山脈沿いに多雨地となっているため,流下速度が速く,ガンガー川とその支流では毎年のようにはんらんを起こす。農作物は,米,小麦,豆類の作付面積がそれぞれ20%前後を示す代表的作物であり,次いでキビ類,サトウキビとなる。ハトマメやサトウキビは,州の特産品である。耕地面積は州域の85%弱もあって広いが,ガンガー,ヤムナーの大河を持つので灌漑施設の整備は比較的進んでおり,灌漑耕地率は全国平均25%強をかなり上回って,パンジャーブ州と並ぶ穀倉地帯を形成する。近代工業は19世紀後半から発達が見られ,第1次世界大戦ころには,紡績,皮革,製糖,機械器具工業などがカーンプル市などを中心に集積していった。州内には,全国2921(1971)の約10%に当たる293都市がある。このうち人口10万人以上の都市は22で,ここに州内都市人口の57%が集中する。工業都市カーンプル,行政都市アラーハーバード,ヒンドゥー教聖地ワーラーナシー,ムガル朝時代の古都アーグラ,および州都ラクナウは,それぞれの頭文字を取ってカーバル(KAVAL)タウンと呼ばれ,州の形成史を象徴する五大都市として有名である。
執筆者:中山 修一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報