ウンセット(読み)うんせっと(英語表記)Sigrid Undset

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウンセット」の意味・わかりやすい解説

ウンセット
うんせっと
Sigrid Undset
(1882―1949)

ノルウェーの女流小説家。有名な考古学者を父とし、デンマーク人を母として生まれる。画家志望だったが、父の早世のため商業学校を出て事務員となり、その体験を描くことから出発した。処女作『マルタ・ウーリィ夫人』(1907)は、平凡な労働者と結婚した女性が倦怠(けんたい)から姦通(かんつう)を犯すまでを日記体に描いた作品。『イェンニー』(1911)は前期の代表作で、まじめで絵の天分もある女がローマに行って理想の相手ヘルゲと結ばれるが、やがて夫の性格に飽き足らず、帰国後は夫の父親に身を任せ、その三角関係に悩んで自殺するに至る過程をきわめて率直大胆に描いた。そののちはるか年上の画家と結婚し、女性の幸福は「婦人解放」にはなく、夫と子と家庭にあることを強調するようになり、『春』(1914)などの作品を書く。しかし結婚生活にも失敗し、これらの苦しい体験を経て人間の悲劇性と宗教に深く思いを潜め、そこに作者の名を世界的にした二つの大作が書かれる。『クリスチン・ラブランスダッター』三部作(1920~22)と『ウーラブ・オードウンセン』四部作(1925~27)で、人間はついに信仰によってでなくては救われぬというのが彼女の得た結論で、その過程でカトリック改宗した。1928年ノーベル文学賞受賞。40年、祖国にドイツ軍が侵入するとアメリカに亡命し、講演・ラジオなどを通じて抵抗運動に従事した。平和回復によって帰国したが、あまり活動しないうちに急逝した。未完遺作に『ドロテア夫人』がある。

[山室 静]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウンセット」の意味・わかりやすい解説

ウンセット
Undset, Sigrid

[生]1882.5.20. デンマーク,カルンドボア
[没]1949.6.10. オスロ
ノルウェーの女流作家。 1928年度ノーベル文学賞受賞。著名な考古学者を父に,デンマーク人を母に生れた。父の早世のため志望の画家の道を進むことができず,商業学校を出て 10年余を商館事務員として過した。その間つぶさに下積みの女性の生態を観察。日記体で,倦怠期にある平凡な女性が姦通を犯すまでを描いた『マルタ・ウーリー夫人』 Fru Marta Oulie (1907) が処女作。若い女流画家が情人とその息子との不幸な三角関係に陥って破滅するまでをたどった『イェンニイ』 Jenny (11) で知られたが,近代女性の自我の目ざめ,恋愛,結婚生活への疑念は作者を婦人解放運動の否定に導き,キリスト教への回帰と,中世人の生き方への沈潜と憧憬に導いた。中世の男女の生涯を徹底的に追究した『ラブランスの娘クリスチン』 Kristin Lavransdatter (20~22) と『オラーブ・アウドゥンスソン』 Olav Audunssøn (25~27) はいずれも記念碑的大作。 24年カトリックに改宗。 40年ナチスの侵攻に際して国外に逃れ,アメリカでレジスタンス運動に従い,終戦後帰国してまもなく死亡。ほかに『ドロテア夫人』 Madame Dorothea (39) など。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android