ノルウェーの女流小説家。有名な考古学者を父とし、デンマーク人を母として生まれる。画家志望だったが、父の早世のため商業学校を出て事務員となり、その体験を描くことから出発した。処女作『マルタ・ウーリィ夫人』(1907)は、平凡な労働者と結婚した女性が倦怠(けんたい)から姦通(かんつう)を犯すまでを日記体に描いた作品。『イェンニー』(1911)は前期の代表作で、まじめで絵の天分もある女がローマに行って理想の相手ヘルゲと結ばれるが、やがて夫の性格に飽き足らず、帰国後は夫の父親に身を任せ、その三角関係に悩んで自殺するに至る過程をきわめて率直大胆に描いた。そののちはるか年上の画家と結婚し、女性の幸福は「婦人解放」にはなく、夫と子と家庭にあることを強調するようになり、『春』(1914)などの作品を書く。しかし結婚生活にも失敗し、これらの苦しい体験を経て人間の悲劇性と宗教に深く思いを潜め、そこに作者の名を世界的にした二つの大作が書かれる。『クリスチン・ラブランスダッター』三部作(1920~22)と『ウーラブ・オードウンセン』四部作(1925~27)で、人間はついに信仰によってでなくては救われぬというのが彼女の得た結論で、その過程でカトリックに改宗した。1928年ノーベル文学賞受賞。40年、祖国にドイツ軍が侵入するとアメリカに亡命し、講演・ラジオなどを通じて抵抗運動に従事した。平和回復によって帰国したが、あまり活動しないうちに急逝した。未完の遺作に『ドロテア夫人』がある。
[山室 静]
ノルウェーの女流小説家。著名な考古学者の娘に生まれ,幼少の頃から古い時代に親しんだ。常に女性問題を扱ったが女性解放運動からは距離をおいていた。最初に名を出した《イェニイ》(1911)は女流画家が理想の愛を実現しようとして苦しむ現代小説。代表作は14世紀前半のノルウェーに設定された《クリスティン・ラブランスダッテル》三部作(1920-22)。詳細な時代考証によるリアリズム小説で,クリスティンの成長と恋愛体験,結婚生活と夫の裏切り,子どもの苦労から破局をへて神への信仰にいたる壮大な一生の物語。古い道徳観とカトリック的秩序観の遭遇が主題と言える。1924年に自らもカトリックに入信した。次の《オーラフ・アウドゥンスセン》二部作(1925-27)も13世紀末に設定されたが,前作の水準にいたらなかった。ナチスの人種差別を激しく非難し,ドイツがノルウェーを侵略すると,アメリカへ亡命,戦後帰国した。1928年にノーベル文学賞を受賞した。
執筆者:毛利 三彌
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…かつて,11世紀にノルウェーに入ってきて隆盛を極めた教会建築様式スターブヒルケstavkirke(樽板造りの木造教会)は今日ノルウェーでのみ完全な形で観察される特異な建築芸術であるが,同様に,この国の独創でなくとも,それなりに特異な芸術作品は20世紀ノルウェーにもある。中世世界を活写したウンセットの歴史小説《クリスティン・ラブランスダッテル》,オスロ市庁舎内の壁画を頂点とする〈フラスコ画三巨匠〉,レーボルAxel Revold(1887‐1962),ロルフセンAlf Rolfsen(1895‐1979),クローグPer Krohg(1889‐1965)らの壁画制作,反ロマン的《ペール・ギュント》の舞台の劇音楽(1948)を書いたセーベルードHarald Sæverudの作品等々である。しかし,彼らが矛盾より調和に近いことも事実である。…
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