日本大百科全書(ニッポニカ) 「エサキダイオード」の意味・わかりやすい解説
エサキダイオード
えさきだいおーど
Esaki diode
江崎玲於奈(れおな)が1957年(昭和32)に発表したダイオード。負性抵抗(印加電圧の増加によって通過電流が減少する)領域をもち、量子力学的な電子のエネルギー障壁突き抜け現象(トンネル効果)が現れるので、トンネルダイオードともよばれる。不純物濃度の高いpn接合でできたダイオードでは、普通のダイオードで電流の流れない順方向電圧の低い所でもトンネル効果による電流が流れ、それ以上電圧が増すとこの電流は減少する。さらに電圧を増すと、普通のダイオードと同じ拡散電流が流れ、全体としてN字形の電圧電流特性が得られる。電流が極小となる電圧は使われる半導体によって変わり、ゲルマニウムで約0.36ボルト、ヒ化ガリウム(ガリウムヒ素)で約0.6ボルト、シリコン(ケイ素)ではその中間である。
トンネル現象とは、pn接合内にできる空乏層が薄くなると、高不純物濃度のために生じた強力な内部電界によって、本来ならば流れない空乏層を電流が流れることをいう。量子力学的効果のためきわめて応答速度が速く本質的に低雑音である。このため、直列インダクタンスの小さい容器に封入したエサキダイオードは高周波特性が良好で、マイクロ波増幅、発振素子や超高速スイッチ素子に用いられる。とくに低雑音であることから、マイクロ波増幅装置の初段増幅によく用いられた。しかし、2端子素子のため、入力と出力の分離がむずかしく、自励発振しやすいので、1980年代以降ではヒ化ガリウムを用いた、3端子素子で、入出力の分離が容易な電界効果トランジスタがかわって用いられる。
[右高正俊]