物理学者。大阪市の生れ。1973年度ノーベル物理学賞受賞。74年文化勲章受章。1947年東京大学理学部物理学科を卒業後,神戸工業に入社,57年東京通信工業(現,ソニー)に移り,60年渡米しIBM研究所員となり,現在同研究所フェローとして半導体物理学の研究に従事している。1957年東京通信工業研究部で,不純物原子を多量に含んだゲルマニウムによる薄いp-n接合を作成し,その電流電圧特性が特異な非線形特性を示すことを発見した。この特性は,物理学からみると量子力学の基本であるトンネル効果の鮮やかな実証例であり,電子工学からみると,現在,エサキダイオードの名で呼ばれる負性抵抗を示す動作領域をもつ優れた半導体素子として結実した(トンネルダイオード)。接合によるトンネル効果の発見は,その後トンネル分光学という新分野を開き,やがては超伝導体の研究にもその手法が適用されて重要な発見をもたらすなど,固体物理学の発展に大きく寄与し,このことがノーベル賞受賞の理由となった。69年から70年にかけて,現在,分子線エピタキシー法(MBE法)と呼ばれる層状人工結晶作成の方法を開発し,その層を貫く方向に流れる電流の共鳴的トンネル効果や負性抵抗を研究するとともに,最近は層に沿った方向に流れる二次元的電流の物理的研究で重要な現象を発見するなど,半導体素子材料に新しい動向を生み出しつつある。
執筆者:植村 泰忠
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物理学者。トンネルダイオード、別名エサキダイオードの発明者。建築家の父壮一郎の長男として大阪で生まれ、1947年(昭和22)東京大学理学部物理学科を卒業、川西機械製作所(後の神戸工業、現在の富士通テン)に入社し、研究生活に入った。1956年東京通信工業(現、ソニー)に移り、逆耐電圧の低いpn接合ダイオードの研究を開始。1957年夏、薄いpn接合で順方向においてトンネル効果による電流が支配的になりうること、そして負性抵抗が現れることを発見し、トンネルダイオードの発明に至った。1960年アメリカのIBMワトソン中央研究所に移った。1969年人工超格子結晶概念を提起し、その後の多面的な研究を通じて、これを半導体分野の基本的な概念となるまでに発展させた。1973年「半導体におけるトンネル現象の実験的発見」によりノーベル物理学賞、翌1974年には文化勲章、1998年には日本国際賞を受けた。1992年(平成4)から1998年まで筑波大学学長を務め、2000年に芝浦工業大学学長、2006年には横浜薬科大学学長に就任した。
[荒川 泓]
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…縮退したp型およびn型半導体で形成されたp‐n接合では,空間電荷層の厚さが約100Å程度と薄いために電子のトンネル現象を生じ,順方向に電圧を加えたとき図に示すような負性抵抗を生ずるので,マイクロ波の発振,増幅や超高速スイッチングに使用される。この素子をトンネルダイオード,またはこの現象を1957年に発見した江崎玲於奈の名を冠しエサキダイオードEsaki diodeともいう。p‐n接合では電圧を加えるとトンネル効果により電流が流れ始めるが,順電圧を大きくしていくとトンネル電流が減少して負性抵抗が現れ,さらに順電圧を大きくすれば少数キャリアの注入電流が流れ出すので,電圧制御型の負性抵抗を生ずる。…
※「江崎玲於奈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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