改訂新版 世界大百科事典 「エピカルモス」の意味・わかりやすい解説
エピカルモス
Epicharmos
前5世紀初期のシチリアの喜劇詩人。生没年不詳。シラクサ生れと伝えられるが詳細は不明である。アッティカの喜劇詩人キオニデス,マグネスよりもはるかに先輩であり,悲劇詩人アイスキュロスに対しても影響を及ぼしたとの伝もある。作品はわずかな引用文と数片のパピルス文書だけしか伝わっていない。ドリス方言によって,神話・伝説をちゃかした滑稽な芝居を著したらしく,大どろぼうのプロメテウス,大食漢で女色に弱いヘラクレス,うそつきで油断のならないオデュッセウスなどが主役となる悪漢喜劇であったことがうかがわれるが,後年シチリアで流行をきたした同様の喜劇の祖となったとも考えられる。しかし登場人物の数,合唱隊の歌詞や動作などについては,何も伝えられていない。
エピカルモスの名のもとに多数の哲学書や自然学関係の著述が古代には伝存していたことが知られているが,その真偽や成立の由来は明らかではなく,アリストテレス学派のアリストクセノスによれば,《偽エピカルモスの書》はいずれも偽作と断定されている。エピカルモスの教えは哲学者プラトンにも多大の影響を及ぼしたと伝える記事がディオゲネス・ラエルティオスの《哲人伝》にあるが,これも信憑性に乏しいとみなされている。エピカルモスがピタゴラス学派の哲人であったとする伝承は,ローマ帝政期の文筆家プルタルコスの記すところであるが,これも確証がない。
執筆者:久保 正彰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報