エルベシウス(読み)えるべしうす(英語表記)Claude Adrien Helvetius

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エルベシウス」の意味・わかりやすい解説

エルベシウス
えるべしうす
Claude Adrien Helvetius
(1715―1771)

フランスの哲学者。百科全書派の一人として、絶対王制と教会権威とを激しく批判したため、最初の著作『精神論』(1758)は焚書(ふんしょ)の刑に処せられたが、彼の思想の特徴は、ロックの認識説をむしろ心理学説として発展させて、一種の環境決定論を主張したところに存する。つまり、人間のあらゆる精神活動の根源は感覚的快の追求にあり、自己愛と利害とがその唯一の動機である。他方、善とは公共の利害に合致する行為をいうのだから、個人の快楽が社会の福祉に合致するように人々を教育し、法律を制定すべきであると説く。また遺稿『人間論』(1772)では、人間精神を白紙タブラ・ラサ)とみて、才能や素質の生得性を否定し、それらを各個人に特有の価値評価や動機づけの総体、つまり教育の所産として説明した。

[坂井昭宏 2015年5月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エルベシウス」の意味・わかりやすい解説

エルベシウス
Helvétius, Claude Adrien

[生]1715.1.26. パリ
[没]1771.12.26. ベルサイユ
フランスの哲学者。フランス革命の思想上の先駆者の一人。百科全書派啓蒙思想家で,フランス 18世紀唯物思想の社会学的,政治学的方面の代表者。イエズス会経営の学校で学んだのち,23歳で徴税官になり,この職から得た莫大な収入でサロンを開き,ドルバック,ディドロ,ダランベールらと親交を結ぶとともに,哲学研究に専念,ロックやコンディヤックの感覚論から出発して唯物論に到達主著『精神論』 De l'esprit (1758) は,人間精神のすべての営為は身体的感覚に基づくと説いているが,その唯物論的,無神論的傾向のために禁書にされた。『人間論』 De l'homme (1772) は『精神論』の立場から述べた一層大胆な人間論,教育論。ほかに,詩集『幸福』 Le Bonheur (1772) や『自然の体系の真の意味』 Vrai sens du système de la nature (1774) など。

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