フランスの《百科全書》(1751-80)の執筆,刊行に参加したフランス啓蒙思想家の集団。百科全書派と訳される。《百科全書》は,フランス大革命前夜の旧制度のもとで,当時の学問と技術との集大成を実現した一大出版事業で,その基本線は革命よりむしろ改革をめざすものであったが,近代的な知識と思考方法によって人々を啓蒙し,権威に対する批判的な態度をひろげた点で,革命を準備するうえに果たした役割は大であったと評価される。これに参加した264人(匿名の者を含む)のアンシクロペディストの集団もまた,このような役割を果たすにふさわしいものであった。18世紀初めのフランスにおいて,思想家集団は,アカデミー・フランセーズなど絶対主義政府の御用集団的な性格をまだ脱しきっていなかった。これに対して思想家がみずからの創意によって集団を結成,維持し,その目的を達成したのは,アンシクロペディスト集団が初めてであった。しかもこの集団は,ディドロ,ダランベール,ボルテール,ルソーなどの代表的な啓蒙思想家を動員したばかりでなく,その協力者の幅の広さをもって根本的性格とする。不明の者を除いて以下いくつかの点について見てみよう。《百科全書》第1巻公刊の1751年に,その年齢が判明している協力者を年齢別に分けると,70歳代が4人,60歳代が4人,50歳代が9人,40歳代が22人,30歳代が34人,20歳代が40人,10歳代が14人,10歳以下が14人である。高齢者は初期の諸巻,若い人々は後期と補巻に参加したもので,その中心は20歳代から40歳代にあったのだが,この年齢上の幅の広さによってのみ,刻々に変化し前進しつつあったフランス啓蒙思想のあらゆるニュアンスをとらえることができたといえるであろう。出身階層別に分けてみると,聖職者,貴族の特権身分が73人,ブルジョアが126人,職人が14人であった。ブルジョアを中心に,特権身分中の進歩的知識人と職人中の熟練工を糾合した,一種の人民戦線がここに形成されていたのである。さらに職業別にみてもアンシクロペディストは実に種々雑多であった。官吏が35人,教授が34人,職人が33人,医師が19人,学者が15人,アカデミー会員が14人,著述家と軍人が各13人,法律家が12人,建築家が11人,芸術家と聖職者が各10人,実業家が7人,探検家が2人などである。ここでまず注目されるのは,いわゆる知識人のほかに実務に従事している人々がきわめて多く含まれていることである。これらの人々は,その実務から得た知識を提供し,これらの知識を知識人が整理したとはいえ,理論と実践との総合の努力は《百科全書》をそれ以前の類書から区別する特色のひとつをなしている。つぎに注目されるのは,アンシクロペディスト集団が政府から俸給や年金を受けている人々の協力を獲得できた点である。絶対主義政府のもとで,この進歩的出版を完成することは,緩衝地帯としてこれらの人々の協力なくしては不可能であったろう。アンシクロペディスト集団は,幅の広いものであっただけ,これをひとつの戦線に組織するのは容易ではなかった。《百科全書》の主任編集者ディドロは,多くの人々の助力によってこの困難な仕事に成功した。まず同調者として,マルゼルブのような新進官僚,ル・ブルトンのような企業家,ボルテールのような老大家があり,ディドロを推進した人々としては,外交官で《文学通信》の編集者グリム,富裕な貴族思想家ドルバック,万能の文筆業者ジョクール,下級官吏で連絡係のダミラビルなどがあった。なかにはルソーのように,あまりにも独創的な思想のゆえに,集団の枠内にとどまりきれず分裂していった人々もあったが,ディドロはよく最後まで組織の維持に成功した。アンシクロペディスト集団が革命の準備に寄与しえたのは,その多くをこの統一戦線としての性格に負っていたのである。
執筆者:桑原 武夫
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… 一方,汎知学は自然の博物誌的諸項目をしらみつぶしに観照するために,必然的に百科全書的表現に向かう。たとえばジデロクラテスの《キリスト教的パラケルススの百科事典》は連環的に構成された博物誌的汎知学であり,のちのフランス・アンシクロペディストの思想的先駆をなす。汎知学は1600年前後の世紀転回期を自然魔術的思考によって通過したあと,三十年戦争の危機のなかで薔薇十字運動の思想的背景として吸収され,またJ.ベーメおよびベーメ派,J.A.コメニウスらに後継者を見いだした。…
…この間,宮廷内の反動派,イエズス会,ジャンセニスト,反動的文筆家たちの露骨な策動があったにもかかわらず,最初1000人だった購読者は,最後には4000人にまで膨れあがった。ディドロ,ダランベールを中心に集まった項目執筆者たちは,通常〈百科全書派(アンシクロペディスト)〉と呼ばれている。 本文第1巻の冒頭に収録されたダランベールの〈序論〉によれば,この総合大事典は二つの目的をもっている。…
※「アンシクロペディスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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