改訂新版 世界大百科事典 「エンレイソウ」の意味・わかりやすい解説
エンレイソウ (延齢草)
Trillium smallii Maxim.
温帯落葉林の林床の草地に生えるユリ科の多年草。輪生する3枚の大きな葉がきわめて特徴的である。本種は花弁を欠くが,シロバナエンレイソウT.tschonoskii Maxim.やオオバナエンレイソウT.kamtschaticum Pallasは白い花弁が発達し,美しいのでしばしば写真で紹介される。地下茎は太く,ややエビ形にそりかえる。茎は高さ20~40cm,上部に広卵状ひし形の葉を輪生し,4~5月,その間から1本の花梗を伸ばす。花は紫色を帯びた萼片のみからなる。おしべは6本,子房は3室で,柱頭は3裂する。漿果(しようか)は球形で,中には多数の種子がある。種子は半月形で末端に白いやや肉質のカルンクルと呼ばれる付属体がある。これはアリを誘引する作用をもち,種子の散布のための適応であると考えられている。エンレイソウとシロバナエンレイソウは日本全土に,オオバナエンレイソウは北海道に分布する。エンレイソウ属Trillium(英名birth-root,wake-robin)は北アメリカに多数の種が分布し,ヒマラヤにも1種ある。
エンレイソウ属の植物は染色体が大きいこと,数が少ないこと,また低温処理をすると染色体にさまざまな模様(退色模様)があらわれることなど,細胞遺伝学の研究材料として数多くの利点をもっており,北海道大学の植物学者たちの研究によって世界的な成果があげられた。オオバナエンレイソウは二倍体(2n=10),シロバナエンレイソウとエンレイソウは四倍体(2n=20)であり,北海道にはこれら3種の交雑に起源したと考えられる三倍体や六倍体の種も知られている。
エンレイソウなどの熟した果実は甘くて食べられるし,エンレイソウ属のいくつかの種の根茎は胃腸薬などに利用される。またアメリカ産の花の美しい種は,観賞用に栽植される。
執筆者:矢原 徹一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報