日本大百科全書(ニッポニカ) 「オオクチイシナギ」の意味・わかりやすい解説
オオクチイシナギ
おおくちいしなぎ / 大口石投
striped jewfish
[学] Stereolepis doederleini
硬骨魚綱スズキ目イシナギ科に属する海水魚。北海道から屋久島(やくしま)までの日本海および太平洋沿岸、東シナ海、男女(だんじょ)群島西岸、九州・パラオ海嶺(かいれい)、朝鮮半島南岸と東岸、ピョートル大帝湾に分布するが、とくに北海道(積丹(しゃこたん)半島や襟裳岬(えりもみさき)沖など)に多い。体は成魚では長楕円(ちょうだえん)形でやや側扁(そくへん)するが、幼魚では体高が高くて、体は短い。口は大きくて、上顎(じょうがく)の後端は目の中央下か、その後方に達する。側線有孔鱗(ゆうこうりん)数は少なくて、57~68枚。背びれ棘(きょく)部と軟条部との境に深い欠刻(切れ込み)がある。体色は全体が灰褐色を帯びる。幼魚には体側に4~6条の黒褐色の縦走帯があるが、成長するにつれて消失する。水深400~600メートルの深海の岩礁帯にすむが、北方海域ではより浅所にいる。おもに魚類、甲殻類およびイカ類を食べる。5~6月の産卵期には150メートルくらいの浅所にきて産卵する。全長は2メートル、体重は100キログラムあまりになる。幼魚の時代は比較的浅所で過ごし、成長すると深海に移る。大物をねらう沖釣りの対象魚で、初夏に産卵のため100~200メートルの浅所に移ったころが漁期になる。餌(えさ)は生きたサバ、スルメイカ、ヤリイカなどを使うがヤリイカが最良とされている。有名な釣り場として石廊崎(いろうざき)(静岡県)、大王崎(だいおうざき)(三重県)、屋久島(やくしま)(鹿児島県)、久美浜(くみはま)(京都府)などがある。白身の魚で、刺身、塩焼き、照焼き、煮つけなどにして賞味される。夏はとくにおいしい。なお、大形魚の肝臓には多量のビタミンAが含まれていて食べるとビタミンA過剰症という食中毒(頭痛、嘔吐(おうと)、発熱、皮膚の隔離)をおこすことがある。
1969年(昭和44)、日本にはイシナギ科に2種いることが判明した。従来、イシナギとされていた種はオオクチイシナギになり、もう1種はコクチイシナギS. gigasになった。しかしコクチイシナギが相模(さがみ)湾で捕獲されて以後、まったく記録がないことから、オオクチイシナギの老成魚である可能性が示唆されている。
[片山正夫・尼岡邦夫 2020年6月23日]