オクリ(読み)おくり

改訂新版 世界大百科事典 「オクリ」の意味・わかりやすい解説

オクリ(送) (おくり)

日本音楽の用語。分野によっていろいろの意味に用いられる。まず能では,拍子合の地拍子において,8拍からなる基本の拍節すなわち本地の間に,例外的に挿入される2拍のクサリをいう。ただし江戸時代には直前または直後に接続する本地と併せた10拍を一クサリとし,それをオクリあるいはオクリ地と称していた。つぎに浄瑠璃には〈オクリ〉あるいは〈なになにオクリ〉と称する旋律型がいろいろある。それらの中では義太夫節のオクリが代表的。義太夫節は1段が口,中,切に分かれ,それぞれの切れ目では,登場人物がいったん引っ込み,それまで床(ゆか)で演奏していた太夫三味線が新しい太夫・三味線と交代して,大道具はそのままで新しい局面に転換するというときに用いられる。そして,前の場面の最後に奏される旋律型も,新しい場面の冒頭で奏される旋律型も,ともにオクリと称するが,両者の旋律はまったく異なっている。つまり同じ旋律型の反復なのではなく,また,少なくとも現在では,ひとつの旋律型の前半と後半というのでもない。ここで特徴的なのは,浄瑠璃の詞章の切れめとの関係で,たとえば〈襖押明け奥に入る。跡には思案あり顔の……〉という場合,〈襖〉を締めくくりのオクリにして音楽上の段落し,〈押明け奥に入る〉を,次の場面の冒頭の詞章とする。そして次の場面は,三味線のオクリの手で開始されるのであるが,曲柄などに応じた演奏が要求される。これは義太夫・三味線の各種旋律を代表するほどのものになっている。場面転換のための旋律型としては,三重に対するものである。そのほか,日本舞踊の会において,楽曲終了後に舞い手が退場する場合に奏する三味線の旋律や,小唄において,詞章を替えて何度か反復して唄うときに奏する三味線の間奏をもオクリということがある。また,尺八で,ひとつの高さを吹きつづけている間に〈押ス〉あるいは〈打ツ〉という技巧を反復することもオクリと称する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オクリ」の意味・わかりやすい解説

オクリ

日本音楽,演劇の用語。「送り」の字をあてる。 (1) 謡曲では地拍子の用語で,七五調一句を八拍子 (やつびょうし) にはめるのを本地 (ほんじ) とするのに対して,下の句が5文字以上ある場合,全体を十拍子にあてはめるが,そのときの増加分二拍子を「オクリ地」という。 (2) 義太夫節では,旋律形態のまとまりをもつ部分から次の部分へのつなぎの役を果す部分をいう。特に1段を口・中・切と分けて演奏者が交代するとき,その最初にオクリの手が用いられる。そのほか,連続する演奏の途中でも,登場人物の交代など,なんらかの転換のあるところに用いられ,細かくは,オクリの種類にいろいろある。 (3) 小唄の楽器的間奏の名称。同一旋律の反復により作曲されている場合,その伴奏の三味線の最初の章の後弾 (あとびき) の全部または一部が次章の前弾を兼ねているときに,その間奏をいう。 (4) 尺八では奏法用語で,同音の反復をいい,その特殊なものに「ルのオクリ」 (記号「ル」) ,「ナヤシオクリ」 (記号「へ」) がある。 (5) 地歌箏曲では,本手との合奏における地の技法用語で,「オクリ地」などと用いて,本手と同じ旋律を送って弾いていくことをいう。 (6) 俳優の供人のこと。金剛ともいう。 (7) 木戸芸者のこと。

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世界大百科事典(旧版)内のオクリの言及

【小栗判官】より

…説経節の曲名。正本としては,古い説経から詞章を得ているといわれる御物(おもの)絵巻《をくり》と,奈良絵本《おくり》が注目される。奔放な振舞いが災いして都から常陸へ流された小栗が,相模の豪族横山の一人姫照手(てるて)と強引に契るに及んで怨みを買い,横山によって毒殺されるまでを前半とする。…

【三重】より

… 義太夫節には,〈なになに三重〉と称する旋律型があり,いずれも一つの段の中での比較的大きな段落に用いられる。その用法がオクリと似ているために,しばしばオクリと対比される。すなわち,一つの段の途中で床(ゆか)の太夫と三味線が交代するときに,前の場面の最後と次の場面の冒頭で奏されるのであるが,オクリが同一場面で局面だけが変わるときに用いられるのに対し,三重は大道具も変わってしまうときに用いられる。…

【能】より

…これらの場合の拍配置が,基準句の拍配置とどう違ってくるかということについて一定の法則がある。また,どのノリ型も,1句8拍の本地(ほんじ)と称する句を基本としているが,ほかに1句4拍のトリと称する句がまじり,まれには1句6拍の片地(かたじ)や1句2拍のオクリと称する句が置かれている。無拍である拍子不合の謡が大きな部分を占めるのも能の特色である。…

※「オクリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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