( 1 )②の構成は節の部分と詞の部分とからなり、音楽としてはヨワ吟(ぎん)とツヨ吟との二通りのうたい方に分けられる。
( 2 )作者は多く観阿彌、世阿彌、金春禅竹(こんぱるぜんちく)などで、その文章は古典の美文をつづり合わせたものが多い。
( 3 )流儀には観世(かんぜ)、宝生(ほうしょう)、金剛(こんごう)、金春(こんぱる)、喜多(きた)などがある。三〇〇〇番ほど作られたが、現行曲は約二三〇あまり。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
能楽,すなわち能と狂言の声楽部分の称。ただし,ふつうには能の声楽のみを指す。同類の語に謡曲があり,これが能の詞章を,主として読む対象として文学的に扱う場合の称呼であるのに対し,謡は,広義には狂言をも含めて,演唱や鑑賞の対象として音楽的あるいは芸能的に扱うときに用いられる。なお,能ではコトバ(詞)の部分をも含めて謡というのに対し,狂言では節付けされた部分に限定して用いる。能の謡は,せりふと地の文章のほか,作者の批評文や感想文などからなっているが,せりふを地謡が謡ったり,ト書きを立方が謡ったりするなど,独特の演出形式がある。能の一部分である謡は,能と切り離してこれだけでも演奏や鑑賞の対象として広く愛好されている。謡のみを稽古する素人の数はきわめて多く,それが能界の経済的基盤となっているほどである。
謡の音楽構造は,旋律様式の上からはコトバとフシ(節)に,リズム様式の上からは拍子不合(ひようしあわず)と拍子合(ひようしあい)に,それぞれ分けられる。コトバというのは,節付けされていない部分,すなわち音楽的に作曲されていない部分であるが,特定の抑揚をつけて謡われる。それに対しフシは,音楽的に作曲されている部分で,謡本ではゴマ点によって作曲の内容が示される。フシは,さらにヨワ(弱)吟とツヨ(強)吟の2種に分けられる。両者は,発音,発声,息扱い,ビブラートのつけ方,音階などの相違の総合によって,きわめて対照的な性格を見せ,ヨワ吟は優美,風雅,温和,哀愁などの表現に,ツヨ吟は勇壮,厳粛,爽快,祝賀などの表現に,それぞれ用いられる。ヨワ吟とツヨ吟の違いのなかでももっとも目だつのは音階の違いで,ツヨ吟では音階音相互の音程関係が極端に狭くなっているのであるが,これはおそらく江戸時代の初期に当時のヨワ吟から分かれて変化しはじめ,幕末ごろ現在の形になったものと推定されている。拍子不合というのは,詞章の各音節が八拍子(やつびようし)という拍節の第何拍であるかということが規定されていないものをいう。それに対して拍子合は,各音節が八拍子のどの拍であるのかが規定されているものをいい,規定のされ方によって,平(ひら)ノリ,中(ちゆう)ノリ,大(おお)ノリの3種に分かれる。平ノリは,詞章が七五調,中ノリは八八調,大ノリは四四調を基本とし,それぞれの各句が,八拍子一クサリに配分されて拍が決定する。これらのなかでは,拍子不合と平ノリとがもっとも用例が多く,中ノリがもっとも少ない。狂言の謡は,能の謡を取り入れたものと狂言独自のものとがあり,その種類は能の場合より多いといえる。それら狂言謡の全部,あるいは狂言独自の謡全部を狂言小歌ということもあるが,能楽研究者はこの用語法をあまり使わない。近世邦楽でも,能の謡の技法を取り入れているが,ツヨ吟を取り入れた部分に限って謡とか謡ガカリなどと称する。三味線や箏などの楽器は,その部分では原則として伴奏しない。
→謡曲
執筆者:蒲生 郷昭
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… こうしたくふうの積み重ねにもとづく様式の部分的変動は,後にも長く続く。たとえば,現在の謡(うたい)にあるヨワ(弱)吟,ツヨ(強)吟という二つの吟型(ぎんがた)が分化したのは江戸時代17世紀末のことだが,その音階はその後も変化を続け,現在の音階に固定したのは江戸最末期から明治時代にかけてである。また詩型とリズムの関係を規制する地拍子も,現在の形式となったのは明治時代以降である。…
…各種のユリに細分し,それぞれ固有の名称を与えるのがもっとも目立つのもこの分野といえよう。平曲や謡(うたい)でも各種のユリが区別されるが,とくに謡の場合は,実際の旋律と名称との対応関係が,流派によって異なることがあるので注意が必要である。狂言謡には,小歌という謡を特徴づける特別なユリがある。…
※「謡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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