精選版 日本国語大辞典 「地」の意味・読み・例文・類語
じ ヂ【地】
〘名〙 (「じ」は「地」の呉音)
[一] 万物の存在する基盤としての大地。また、そのものの占める場所。ち。
① 大地。地面。つち。ち。
※宇津保(970‐999頃)吹上下「涼はいやゆきが琴を〈略〉ねたうつかうまつるに、雲の上より響き、地の下よりとよみ、風・雲動きて、月・星さわぐ」
② ある区画内の土地。邸宅や所有地内の土地。また、住んでいるあたりの地域。その土地。ち。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「この蔵はこの地のほどにもみえず。御供なる人に『この地の内か、見よ』とのたまふ」
③ 自分の影響の及ぶ地。勢力の及ぶ範囲。なわばり。
※洒落本・古契三娼(1787)「梅もとのていしゅはあたま七といっていろしさ。おもてやぐらにも地(ヂ)がござりやしたっけ」
④ 双六(すごろく)で、盤面を左右に分け、双方各一二の罫(けい)によって区切った、そのおのおののますめ。
※浮世草子・好色産毛(1695頃)二「二六時中の暮がたふ、白黒とのみ、何わきまゆるかたなふ候。大和本手の事ばかり、おもひきられぬ石づかい〈略〉あたまがはげて、五地(ぐヂ)も六地もみるものなく候」
⑤ 囲碁で、終局の時点で得点に数えられる空点。生き石で囲み、相手がはいってきても、生きられない地域。日本のルールではセキの中の地は数えない習慣があり、取り石(ハマ)も相手側の地をマイナスすることによって地に換算される。計算の単位は目(もく)。地所。
※俳諧・鶉衣(1727‐79)後「ただ地を造り、はま巻尽してぞ始て蚊の口のかゆさを覚え、菓子盆に蟻の付たるを驚く」
⑥ 貝合わせ、歌がるたなどで、床に並べた貝や札をいう。〔雍州府志(1684)〕
[二] 本来のもの。本質的なもの。粉飾や加工などをしないもとの形。
① 人の皮膚。肌。はだえ。
※われから(1896)〈樋口一葉〉三「更に濃い化粧の白ぎく、是れも今更やめられぬやうな肌(ヂ)になりぬ」
② 布帛や紙などで、紋様などを織り出したり染め出したりしていない、本来の生地の部分。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「下簾も香のぢに薄物重ねて、小鳥・蝶などを縫ひたり」
③ 裁断、または加工などをしていない、織ったままの布地。また、布地の材質。
※太平記(14C後)七「麓には数千の官軍、冑星(かぶとのほし)を耀かし鎧の袖を連ねて、錦繍しける地の如し」
④ 扇、傘、烏帽子などに用いる、その型に切った厚紙。地紙。
※謡曲・烏帽子折(1480頃)「ことさら都より然るべき地を取り下して候ふ、さりながら何番に折り候ふべき」
⑤ 虚構ではない現実の世界。実際。実地。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「コレ、聴きやれ。そこが狂言と云ものだは。地(ヂ)と狂言との差別(しゃべつ)はそこだはス」
⑥ 連歌、俳諧で、一句に特別な意図や趣向はないが、前句に気軽く応じた、素直で無難な句。
※連歌教訓(1582)「心深く案じぬるを紋といふ也、安々とやりたるを地といふ也」
⑦ 生まれつきの性質。もちまえ。本性。本心。
※無名抄(1211頃)「面々に証得したる気色どもは甚しけれど、ちに哥のさまを知りて譛め譏りする人はなし」
⑧ (その道の商売人に対して) 素人(しろうと)。特に、素人で売春をおこなうこと。また、そのもの。地者。
※雑俳・柳多留‐六(1771)「中宿で地は御無用といけんする」
[三] 基本となるもの。他に発展するもととなるもの。他と付随しながら、その基本を構成する部分。
① 基礎となるもの。根底。
※童子問(1707)上「忠信為二行レ仁之地一。不二亦宜一乎」
② 文章や語り物で、会話や歌を除いた叙述の部分。
※源氏物語一葉抄(1495頃)一「すべて此物語に、作者詞、人々の心詞、双紙詞、又、草子の地あり。よく分別すべし」
③ 舞踊で、舞いに伴う楽曲。伴奏の音楽や歌。また、それをする人、楽器など。地方(じかた)。
※雑俳・柳多留拾遺(1801)巻三「盆おどり是悲なく乳母も地をうたひ」
④ (基礎の楽句の意) 日本音楽で、同じ楽句を何回も繰り返して奏するもの。砧地(きぬたじ)、巣籠地(すごもりじ)など。
※大蔵虎明聞書(1658‐61頃)「楽の地は、たらつくたらつくたんたらつく。此地が本地也」
⑥ 「じうたい(地謡)」の略。
※虎明本狂言・宗論(室町末‐近世初)「〈次第〉南無妙法蓮華経、蓮華経のきゃうの字をきゃうせんと人や思ふらん〈ぢをとる間に、かさをぬぐ〉」
⑦ 歌舞伎で、所作事に対し、せりふ劇の部分をいう。写実的な演技。
※役者論語(1776)あやめぐさ「所作事は狂言の花なり。地は狂言の実なり」
⑧ 「じがい(地貝)」の略。
[四] 楊弓、大弓などで金銭をかける際の二銭のこと。「本朝世事談綺」に、賭金は一銭ずつ紅白の紙に包んで、それを「字」というとあるが「地」と「字」の関係ははっきりしない。また、二分五厘をいう「字」との関係もよくわからない。
※随筆・一時随筆(1683)「かけものは〈略〉さて銭のときは、一銭を餓鬼、二銭を地といひ、三銭を山といひ」
ち【地】
〘名〙 (「ぢ」とも)
① 天に対して、地上。大地。地球。
※宇津保(970‐999頃)吹上下「いやゆきが琴を〈略〉ねたうつかうまつるに、雲の上より響き地の下よりとよみ」
※小学読本(1874)〈榊原・那珂・稲垣〉五「天も知るべく地も知る可く」 〔易経‐乾卦文言〕
② 海に対して、陸地。
※平家(13C前)二「これは猶舟津近うてあしかりなんとて、地へわたし奉り」
③ 土地の表面。ある区画内の土地。地面。地所。土。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「この蔵はこの地のほどにもみえず。御供なる人に、『この地の内か、見よ』とのたまふ」
※方丈記(1212)「所を思ひ定めざるがゆゑに、地を占めてつくらず」
④ ある限られた地域。地方。ところ。また、そこに住む人。
※令義解(718)戸「地遠人稀之処。随レ便量置」
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉七「其地を去らぬことを示した」 〔孟子‐公孫丑下〕
⑤ ある者に支配されるところ。領地。また、その者の影響や勢力の及ぶ範囲。なわばり。
※古本説話集(1130頃か)四七「この御てらのちは、こと所よりはちのてい、かめのこうのやうにたかければ」
⑥ そのものの置かれた位置。たちば。地位。境遇。
⑦ 物の下方。床に接する部分。「天地無用」
⑧ 本を立てたとき、床に接する部分。天、小口、背、表紙でない部分。
⑨ 物の基本となる部分。基礎。根源。また、したじ。
※童子問(1707)上「礼以為レ輔。忠信以為二之地一」
⑩ 大地を主宰する神。地神。
[補注]「ち」は「地」の漢音、「ぢ」は呉音。例文の「地」または「ち」の表記の清濁は必ずしも明らかではないので、一部「じ(地)」の項と重複してあげた。
つし【地】
〘名〙 土(つち)をいう上代東国方言。→天地(あめつし)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報