日本大百科全書(ニッポニカ) 「キセルガイ」の意味・わかりやすい解説
キセルガイ
きせるがい / 煙管貝
軟体動物門腹足綱キセルガイ科に属する巻き貝の総称。この科Clausiliidaeはすべての種が左巻きの陸産種で、巻き数も多く紡錘形、体層は多少狭くなり鉈豆(なたまめ)きせるを連想させる。多くは褐色で、殻口と殻内は白く、上板、下板、下軸板などのひだがある。殻口内にはそのほかにスプーン形の閉弁とよばれる石灰板があるが、これは体を殻内に退縮するとき蓋(ふた)のように殻口を閉じる働きをする。また別に主襞(ひだ)、上腔(こう)襞、月状襞、下腔襞など多くの畝(うね)状の構造があり、これらの形状、数、配置が分類上の重要な標徴となる。
多くの種類は木の洞や落ち葉の下などにすみ、それらの腐植質をなめ取る。軟体の外形はカタツムリ類と似ている。雌雄同体で、胎生種が多く、幼貝を数個産むが、ミカドギセルガイTyrannophaedusa mikadoなどは卵生で卵を産む。キセルガイ科は日本に約140種が知られているが、主要な種は次のとおりである。
ナミギセルガイStreophaedusa japonicaは本州と四国、ならびに九州の一部に分布し、平地にすむ。殻高25ミリメートル、殻径7ミリメートル。オオギセルガイMegalophaedusa martensiは東海地方から近畿、中国地方にまですみ、殻高45ミリメートル、殻径10ミリメートルに達する日本最大の種。ナミコギセルガイEuphaedusa tauは本州と四国の一部にすみ、殻高15ミリメートル、殻径3ミリメートルの小形種である。ヒカリギセルガイZapticopsis buschiは東北、関東に多く、ツムガタギセルガイHemiphaedusa pinguisは本州西部、四国の一部に多い。スグヒダギセルガイZaptyx strictalunaは九州に多い小形種。ヒロクチコギセルガイReinia variegataは本州から九州までの海岸の低木樹上性で、殻の黄色が美しい。
[奥谷喬司]