日本大百科全書(ニッポニカ) 「オースティン鉱」の意味・わかりやすい解説
オースティン鉱
おーすてぃんこう
austinite
カルシウムと亜鉛の含水ヒ酸塩鉱物。斜方(直方)晶系に属するその自形結晶が、半面像晶族の対称をもつため、右結晶と左結晶とがあるということで、鉱物形態学上非常に有名な種である。
日本には知られていないが、接触交代型(スカルン型)あるいは深熱水鉱脈型亜鉛・鉛鉱床の酸化帯に産し、その主成分の亜鉛(Zn)とヒ素(As)は別の母鉱物に由来するものとされる。母鉱物の候補としては、亜鉛は異極鉱や菱(りょう)亜鉛鉱のような二次鉱物、ヒ素はスコロド石やアダム鉱など正ヒ酸塩二次鉱物があげられる。
形態はc軸方向に伸びた菱柱状をなすものが多いが、結晶先端部は真上から見ると、斜めの境界線をもつ二つの錐面(すいめん)のみからなり、その境界線は柱面に平行となる。針状・繊維状結晶が放射状集合をなし、またこれが皮膜や球状集合となることもある。共存鉱物はアダム鉱、針鉄鉱、石英など。同定は白色のものは困難であるが、わずかに黄色や緑色に着色したものはアダム鉱と共存する場合、これより光沢が強いようにみえる。またアダム鉱は針状や繊維状にならない。命名はアメリカの鉱物学者スタンフォード大学教授オースティン・フリント・ロジャースAustin Flint Rogers(1887―1957)にちなむ。
[加藤 昭 2016年1月19日]