翻訳|patron
さまざまな意味での保護者を指すが,とくに慣用的に芸術上の保護者,後援者,主として経済的な援助者の意味で用いられる。pater(〈父〉の意)に由来するラテン語patronusが語源。同様の意味をもつフランス語のメセーヌmécèneは,古代ローマのアウグストゥス帝の顧問であったマエケナスG.C.Maecenasの名に由来し,彼が自宅や別荘を開放して詩人たちを後援した故事に基づく。芸術家は本来,実用的な生産物や加工品の生産者でもないし,流通に携わる商人でもない。必然的に,彼らの創造はなんらかの擁護者,注文主,購入主を必要とする。そのような注文主たちは,食料や衣服の購入者とは異なった特殊な人々であるために,パトロンとして別格化されたと考えてよい。芸術家と購入者の関係を,被保護者と保護者としてとらえるなら,それは芸術の始源以来,今日まで持続している。
モニュメント(記念的建造物)の建築家が宮廷内できわめて高い地位を占め,彫刻家や画家たちも宮廷工房に直属していた古代エジプトにおいてはもちろんのこと,古代ギリシアにおいてもポリスの公共的建造物の創造にあたった芸術家たちは,共同体を保護者としていた。ヘレニズム期には,図書館,大学などの建設や,たとえばプトレマイオス王国の宮廷にいた画家アペレスの例が示すように,ヘレニズム君主たちによる芸術の保護育成は流行の感さえあった。
中世西欧社会においては,主として教会が芸術家保護の任にあたっている。やがて中世後期以降,王侯君主や富裕な商人,教皇たちが,新しい時代のパトロンとして登場する。ランブール兄弟に《いとも豪華なる時禱書》を描かせたベリー公ジャン,多くの巨匠や詩人たちを保護したメディチ家の当主たちをはじめとして,ルネサンス期の君主や商人の多くが,美術史に芸術保護者としての名を残している。ブラマンテ,ミケランジェロ,ラファエロを招き,ローマにおけるルネサンスを開花させた教皇ユリウス2世,デューラーを招いた皇帝マクシミリアン1世,晩年のレオナルド・ダ・ビンチを厚遇したフランス王フランソア1世などもあげられる。17世紀には,中央集権国家が宮廷とアカデミーを軸として,いわば国家政策として芸術の育成,保護に努める。
しかし以上のような関係は,必ずしも保護者と被保護者の関係とはいえないであろう。たとえば,メディチ家の当主たちは芸術家を保護することによって彼ら自身の栄光を形成したし,ベリー公ジャンは,芸術愛好家としての彼の趣味を満足させるべく収集し,芸術家を宮廷に招いたのである。また,17世紀フランスのリシュリューやコルベールにとっては芸術保護は,ときには商業的な意味をもち,ときにはイタリアニズム(イタリア趣味)を排撃する国家的な政策の一環としてなされている。
たとえば,プッサンらの古典主義が擁護されている一方で,多くのイタリア・バロック風の芸術家が弾圧とはいえないまでも,排除されている。パトロンと芸術家がとりわけ親密な理解と友情で結ばれる場合がないわけではないが,多くの場合は,個人と芸術家,公共体と芸術家のあいだの単なる取引の一種と考えてよい。逆に,ドメニコ・ベネツィアーノやウッチェロの作品を持ちえたことを神に感謝したといわれる,15~16世紀イタリアの詩人ルチェラーイG.Rucellaiの例もあげられるほどである。
このような関係は,基本的には近代・現代でも同様であるが,教会,宮廷,公共体といった大パトロンをしだいに失い,ブルジョアジー,画商,批評家たちと芸術家の関係が緊密化してくる18世紀以降になると,かえってパトロンの存在は重要になる。たとえば,ワトーの面倒を見たパリの銀行家クロザP.Crozat,印象派の作品を扱ったデュラン=リュエル商会や画商ボラール,あるいは建築家ガウディと信念を同じくして彼に多くの建築を任せたグエルGüell侯爵,キュビスムの画家を支援した画商カーンワイラーなどがあげられる。もし彼らの関係が,単なる取引関係にすぎないならパトロンという名は不当だろうし,同様に,信頼の関係であっても不当だということになろう。
→画商 →コレクション
執筆者:中山 公男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし加速器では実現できない1012eV以上の高エネルギー領域での研究は,現在でももっぱら宇宙線によって行われている。 ハドロンの相互作用については,エマルジョンチェンバー(原子核乾板と炭素,鉛などの板とを交互に多数段積み重ねた核反応検出装置)を気球や飛行機に搭載したり,高山に大面積に展開して研究がなされ,中間子多重発生現象では,横方向運動量一定の法則,発生粒子数のエネルギー依存性,特別な型の相互作用など,多くの成果が得られている。さらに高いエネルギー領域については,山上や地上の広大な面積に多数のシンチレーションカウンターやその他の計数管を散在させた装置で,拡大空気シャワーとして降ってくる105~1010個の荷電粒子の観測を行い,超高エネルギー核相互作用の特性についての究明が行われている。…
…この強い力は,10-13cmという非常に小さい距離でのみ強く働いて,それを越えると非常にはやく減少するという特徴をもつ。さて,素粒子をこの相互作用とのかかわりによっておおまかに分けてみると,ハドロン(強粒子),レプトン(軽粒子),フォトンの3種類になる。ハドロンは強い相互作用をするのが特徴であるが,電磁相互作用や弱い相互作用もする。…
…核力によって核子は結合し原子核をつくる。この相互作用は電磁相互作用などに比べて強いので,陽子,π中間子などは強い相互作用をする粒子という意味でハドロンと呼ばれる。 陽子および中性子は原子核の素(もと)という意味で素粒子と名付けられたのであるが,現在では物質の根元をなす基本的粒子ではないことが明らかになっている。…
※「パトロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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