改訂新版 世界大百科事典 「カラスアゲハ」の意味・わかりやすい解説
カラスアゲハ
Achillides(=Papilio)bianor
鱗翅目アゲハチョウ科の昆虫。日本全国にふつうで,国外ではミャンマー北部から中国,朝鮮半島,ロシア極東に分布する。開張は春型雄の約8cmから夏型雌の12cm程度まで幅がある。市街地から低山帯に多く,花に集まるほか,夏型の雄は吸水することもある。4~5月に春型,7~8月に夏型の年2回発生がふつうであるが,寒地では年1回,暖地では3回発生することもある。雌雄で色調,斑紋が少し異なり,雄は青く光り,雌は緑色が強く,後翅の赤紋も発達する。雄の前翅表面にはビロード状の黒い性標がある。幼虫はミカン科の野生植物,とくにコクサギ,キハダ,サンショウを好むが,町中ではカラタチにもつく。さなぎで越冬する。南の離島には別亜種を産し,沖縄産は近年,オキナワカラスアゲハとして別種にされた。
よく似てやや大型(開張8.5~14cm)のミヤマカラスアゲハA.maackiiは,幼虫がキハダ(北地,山地),カラスザンショウ,ハマセンダン(暖地)を選好するため,分布はやや局地的である。本州では山地に多いが,北海道や種子島,屋久島両島では平地にも産する。キハダがあれば市街地でもときに発生する。周年経過はカラスアゲハと同様であるが,寒冷地ではミヤマカラスアゲハが早く出現する。夏型の雄は湿地に数十頭の集団をなして吸水することがある。翅の表面はカラスアゲハよりいっそう色鮮やかで,裏面でも両種の区別は容易である。終齢幼虫は互いによく似ているが,さなぎは腹部の構造がまったく異なる。本種のさなぎは,寒冷地では葉とともに地上に落ち,雪の下で越冬するものと推察される。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報