改訂新版 世界大百科事典 「カルパスートラ」の意味・わかりやすい解説
カルパ・スートラ
Kalpa-sūtra
古代インド,バラモン教の宗教儀礼の綱要書で,〈祭事経〉と訳される。ベーダ聖典の成立後,その理解と実践のための手引書として《ベーダーンガVedāṅga》と称する6種の補助的文献群が成立した。ベーダ聖典に定められた祭式を行うために必要な規則を網羅した《カルパ・スートラ》もその一つで,6種中もっとも重要視されている。(1)シュラウタ・スートラ(天啓経),(2)グリヒヤ・スートラ(家庭経),(3)シュルバ・スートラ(祭壇経),(4)ダルマ・スートラ(律法経)の4部門に分かれている。(1)はバラモンが司祭となって行う,大規模な公的祭式の規則を集めたもので,ベーダ文献から実用に必要な要点のみを抽出しており,古代インドの宗教儀礼を知るために不可欠の文献として重視される。(2)は家庭の日常生活のなかで行われる祭式を規定する。(3)は祭場,祭壇,祭火を設置するための測量法を述べたもので,通常は(1)のシュラウタ・スートラに付属している。そこにはピタゴラスの定理に相当する規則も説かれていて,古代インドの幾何学の発達を知るうえで注目に値する。(4)はバラモンの立場から4階級それぞれの権利・義務・生活法を規定するが,世俗の法にとどまらず宗教的要素も多分に含み,《マヌ法典》に代表される後世の法典文学の先駆をなしている。これらの4部門は,いずれも〈スートラ体〉と呼ばれる極度に簡略化された文体で書かれていて,ほぼ前6世紀ころから前2世紀ころにかけての成立と考えられる。
執筆者:吉岡 司郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報