カンザシゴカイ

改訂新版 世界大百科事典 「カンザシゴカイ」の意味・わかりやすい解説

カンザシゴカイ

多毛綱カンザシゴカイ科Serpulidaeに属する環形動物の総称。頭部の鰓冠(さいかん)にある1個の殻ぶたをかんざし(簪)にみたててこの名がある。日本には現在27属60種ほどが知られている。

 カンザシゴカイ類は石灰質を分泌して管をつくり,その中で終生生活する。体は鰓冠部,胸部腹部に分かれる。体長は大きいもので7~8cmになるが,大部分は3cm前後。鰓冠部には数対~数十対の鰓糸が半円状やらせん状に並び,そのうちの1本が特別な殻柄(かくへい)になり,先端に殻ぶたをつける。しかし,ごく少数のもので殻ぶたをもたないものもある。殻ぶたの形態にはさまざまなものがあり,これは外敵に襲われると管の中に体を引き入れ,殻ぶたで入口をふさいで身を守る護身器官である。胸部は7剛毛節からなり,薄い胸膜で大部分が包まれる。背側の第1剛毛束をとくにえり剛毛と呼んでいる。腹部は30~120体節からなり,剛毛がある。棲管(せいかん)には細いものから太いものまであり,色も白色,青色桃色,赤色など変化に富んでいる。これらの棲管がアコヤガイカキなどの有用貝殻の上に付着して,ついには殻の口をふさいで貝を殺したり,船底に付着したものは船速をおくらせ,また水路の周囲に付着して水の流れをおそくさせるなど,いろいろな被害を与える場合が多い。幼生は一時プランクトン生活をし,その後いろいろな基盤に付着して成長するが,種類によって内湾,外洋,浅海などに成育場所が限定されている。

 一般に暖海に種類が多く,北海道では6種ほどが知られているにすぎない。ヒトエカンザシゴカイSerpula vermicularisは大型で,体長5~7cm。殻ぶたがラッパ状で上縁は鋸歯のようになっている。非常に厚くて太い管をつくる。カサネカンザシゴカイHydroides elegamsは本州中部以南に分布し,体長2cmほどで細い管をつくる。殻ぶたは2段に重なっていて,上段の盃状体には14~17本のとげが花弁状に並んでいる。この種類は内湾性で,1969年広島湾で異常発生して養殖カキに数億円の被害を与えたことがある。エゾカサネカンザシゴカイH.ezoensisの棲管はカサネカンザシゴカイより太く,北海道から九州まで分布。横に広がる場所がなくなると上方にのびて厚さ10cmほどの殻の群集になり,港湾施設などに付着。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カンザシゴカイ」の意味・わかりやすい解説

カンザシゴカイ
かんざしごかい / 簪沙蚕

環形動物門多毛綱定在目カンザシゴカイ科Serpulidaeに属する種類の総称。頭端にある鰓冠(さいかん)の一部が変形してできた殻蓋(かくぶた)をかんざしに見立てて名づけられた。虫体はいずれも石灰質の管の中にすみ、殻蓋で管の入口をふさいで身を守る。この殻蓋にはいろいろな形があり、それらが分類上たいせつな特徴になっている。ヒトエカンザシSerpula vermicularisの殻蓋は、ただ1個の大きな漏斗(ろうと)状。カサネカンザシ属Hydroidesの種類は杯状体が上下2段に重なっていて、上段の形態が種により異なっている。暖海のサンゴ礁に埋まって、色とりどりの鰓冠をのぞかせているイバラカンザシSpirobranchus giganteusは、杯状体の上にシカの角(つの)のような突起物をつけている。東北地方以南の海岸にごく普通にみられ、青色の管に入っているヤッコカンザシPomatoleios kraussiiは上端が扁平(へんぺい)な単一杯状体で、その基部に1対の翼状の突起をもつ。現在日本から60種ほど知られている。この類が養殖中のカキやアコヤガイの殻の上を覆って窒息死させることもあり、1969年(昭和44)に広島湾の養殖ガキは数億円の被害を受けた。また、海中の器材や諸施設に厚さが10センチメートルくらいの層になって密着することもあり、このような状態になる種類を汚損動物といっている。

[今島 実]


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