日本大百科全書(ニッポニカ) 「カンツォニエーレ」の意味・わかりやすい解説
カンツォニエーレ
かんつぉにえーれ
Canzoniere
イタリアの詩人ペトラルカのイタリア語による叙情詩集。このタイトルは後世の通称で、正式の書名は『俗語詩断片集』Rerum vulgarium fragmenta。詩集の構想は推定によるとすでに1330年代後半に兆し、死(1374)によって中断されるまで幾度となく増補と推敲(すいこう)が重ねられ、不動の形式美に到達した。最終稿に収める詩編は366、内訳はソネット317、カンツォーネ29、セスティーナ9、バッラータ7、マドリガーレ4。教皇庁の腐敗を批判したり、イタリアの覚醒(かくせい)を呼びかける詩もあるが、大部分は美女ラウラへの愛を主題とする。全体は2部に分かれ、従来の説はラウラの生前と死後に対応させてきたが、現在は、永遠と地上のはざまで苦悩する詩人の内面の決定的転換に基づくとする見方が有力。ラウラは詩人にとって、無限と有限の間の調和と矛盾を一身に体現していた。なお近代叙情詩の源として後世に及ぼした影響は計り知れない。
[林 和宏]