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がん発生のメカニズム がんはっせいのめかにずむ

家庭医学館の解説

がんはっせいのめかにずむ【がん発生のメカニズム】

◎がん発生に関する遺伝子(いでんし)
◎がんを発生させる環境要因
◎細胞ががん化するまで

◎がん発生に関する遺伝子
●がんを発生させる遺伝子
 近年、がんがどのようにして発生するのか、そのメカニズムの研究が進み、しだいに明らかになっています。
 もともと正常な細胞の中に、がんを発生させる因子がすでにひそんでいて、これに外部からの刺激、環境要因が加わってがんが発生すると考えられています。この正常な細胞の中にひそむ因子とは、がんの発生を促進させるがん遺伝子と、がんの発生を抑制するがん抑制遺伝子(よくせいいでんし)という、正反対のはたらきをする2つの遺伝子です。
①がん遺伝子
 細胞の中にある遺伝子のうち、傷ついて異常をおこすと細胞をがん化させる遺伝子をがん遺伝子といいます。もともとは、がんを発生させる遺伝子ではなく、細胞が増殖(ぞうしょく)、分化していく際にはたらくたいせつな遺伝子が、がん遺伝子に変身すると考えられています。がん遺伝子に変身する前の遺伝子を、プロト(原型(げんけい))がん遺伝子といいます。
②がん抑制遺伝子
 一方、細胞ががん化しようとするのを抑制する作用をもつ遺伝子をがん抑制遺伝子といいます。がん抑制遺伝子が欠けていたり(欠損(けっそん))、傷ついてはたらかなくなると、細胞ががん化するのを止められず、がんの発生につながります。
 実際に、網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)、骨肉腫(こつにくしゅ)、肺がん、大腸(だいちょう)がん、卵巣(らんそう)がん、乳がん、ウイルムス腫瘍(しゅよう)などで、がん抑制遺伝子の欠損が見つかっています。
●遺伝子の異常を修復するしくみ
 がん化に導く遺伝子の異常を見つけて修復しようとする特殊な遺伝子も、いくつか見つかっています。
①DNA修復遺伝子(しゅうふくいでんし)
 がん遺伝子の発生は、細胞分裂の際の遺伝子情報の伝達エラーや、発がん物質その他の外的要因によって、遺伝子を構成するDNA配列に障害が生じるためにおこってきます。実は、生体には本来、このDNAの傷害がおこると、DNA修復酵素(しゅうふくこうそ)がはたらいて傷害を修復するシステムが備わっていて、修復を指令するDNA修復遺伝子が存在することもわかってきました。このDNA修復遺伝子に異常がおこるために、がん遺伝子が発生しやすくなる場合もあります。ごくまれですが、遺伝性大腸がんや色素性乾皮症(しきそせいかんぴしょう)が、その例です。
②アポトーシス
 また、細胞は、老化やDNAの傷害に対しては自然に死ぬようにプログラムされています。DNAの傷害を修復できない場合は、アポトーシスという細胞の自殺機構がはたらき、細胞を死なせてがん細胞の発生を防ぎます。この修復システムに関係する遺伝子に異常がおこり、システムが正常に作用しないと、死ぬべき細胞が異常増殖を始め、がん化する場合もあります。

◎がんを発生させる環境要因
 現在、がん遺伝子の活性化とがん抑制遺伝子の欠損のどちらかが、がんの発生に大きくかかわっていると考えられていますが、なぜおこるのかその理由はまだわかっていません。おそらく、外部からつぎのような環境要因が加わるためではないかと考えられています。
①発がん物質
 動物実験では、ある種の化学物質にくり返し接触させたり、あるいは摂取させたりすると、がんが発生してくることが確かめられています。このようながんを発生させる物質を発がん物質といいます。また、大気汚染物質、排気ガス、いくつかの食品のかび毒や食品添加物、たばこなどが発がん物質としてやり玉にあげられていて、研究が進められています。
②ウイルス感染
 動物に発生するがんのなかには、たとえばネズミの白血病(はっけつびょう)のように、ウイルスの感染との関係がはっきりしているものがあります。
 人間のがんでも、アフリカの黒人に多いバーキット腫瘍(しゅよう)や、台湾に多い上咽頭(いんとう)がんは、ウイルス感染が引き金になっている可能性が高いといわれています。また、成人T細胞白血病や子宮頸(しきゅうけい)がんは、ウイルス感染が原因であるとする考え方が強くなってきていますし、肝がんになった人の血液を調べてみると、その多くがB型肝炎やC型肝炎のウイルスの保有者です。
③放射線照射
 大量の放射線を浴びたり、少量の放射線でもくり返し長期間浴びていると、皮膚がんや白血病がおこってくることが知られています。
④紫外線(しがいせん)
 紫外線は皮膚がんの原因となります。紫外線に対する保護作用のある皮膚色素(表皮メラニン)の少ない白人にとくに多く発症がみられます。
●がんは遺伝するか
 がんには遺伝子が関係していますが、基本的には、親から子へ遺伝する病気ではありません。
 非常にまれですが、子どもにみられる、目にできる網膜芽細胞腫や腎臓(じんぞう)にできるウイルムス腫瘍のなかのごく一部が、遺伝するがんとして知られています。また、がんそのものの遺伝ではなく、がんのできやすさが遺伝する病気として、大腸がんになりやすい家族性大腸ポリポーシスや、皮膚がんになりやすい色素性乾皮症、白血病になりやすいブルーム症候群、乳がんの原因になるリー・フラメニー症候群などがあります。

◎細胞ががん化するまで
●多段階(ただんかい)発がんの過程
 がんは1つのがん遺伝子の変異によってすぐできるのではなく、複数のがん遺伝子やがん抑制遺伝子が何回も変化していく過程が必要です。がんの死亡率が、年齢のおよそ4~6乗に比例することから、がんの発生までに約20年以上かけて、遺伝子の4~6回もの変化が必要だと考えられています。
 正常細胞のなかの1個のがん細胞が分裂を重ね、しだいに悪性度を高めながら目に見えるがんになるには、ふつう20年か、それ以上の年月がかかるわけです。
 このような過程を、多段階発がんといいます。この過程で変化する遺伝子の組み合わせと順番は、がんの種類によって決まっているらしいことがわかっています。そこで、このような特徴を遺伝子診断によって検出して、大腸がんや肺がん、胃がんなど、一部のがんの診断に用いることも試みられています。

出典|小学館家庭医学館について | 情報

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