ギボウシ(その他表記)plantain lily
Hosta

改訂新版 世界大百科事典 「ギボウシ」の意味・わかりやすい解説

ギボウシ
plantain lily
Hosta

約20種からなるユリ科の多年草の1属。東アジア特産で日本に種類が多く,数種が観賞用植物として江戸時代から庭園に栽植される。根はひげ根状だが太い。葉は根生し,裏に出る平行脈をもつ。伸長途中の花茎の先の苞の集まった形が宝珠に似ており,擬宝珠(ぎぼうし)という和名が生じた。花は1日花で,総状花序の下から順に咲き,白色から赤紫色または青紫色,6枚の花被片からなり,中央部まで合生する。おしべは6本でめしべは1個。子房は上位で3室。果実は蒴果(さくか)。種子は多数で翼をもち黒色。

ギボウシ属の種は,多型で園芸品種も多く,かつては種が細分されていたが,地理的な変異を考慮すれば,日本の自生種は13種程度に整理される。開花期,苞の形と質,葉形と葉裏脈上の凹凸などが種の区別点となる。また花被内側の着色の仕方に2型あり,花被片の中央部が帯状に一様に着色するオオバギボウシイワギボウシの群と,花被の脈の部分が特に濃くて濃淡のまだらとなるコバギボウシの群が区別される。種数は西日本に多いが,日本全体に広く分布する種はオオバギボウシ,イワギボウシ,コバギボウシの3種である。オオバギボウシH.sieboldiana(Lodd.)Engl.は,開花時に苞が開出し,葉裏脈上の凹凸が目だち,ギボウシ分布の南限にあたる屋久島から北海道渡島半島まで広く分布し,開花期は6月下旬から8月上旬である。オオバギボウシに近縁なキヨスミギボウシH.kiyosumiensis F.Maekawa(千葉県に分布)や,ヒュウガギボウシH.kikutii F.Maekawa(宮崎県に分布)とは分布域が互いに重ならない。イワギボウシH.longipes(Fr.et Sav.)Matsum.は,苞が薄く,葉裏の脈上が全く滑らかで,九州から東北南部まで分布し,開花期は8月中旬から10月上旬であるが,苞の質・形・しおれ方に地域差があり,5変種が区別される。紫色の花色が濃いコバギボウシH.albomarginata(Hook.)Ohwiは,葉身の基部がくさび形で葉柄に流れ,九州から北海道,さらに沿海州サハリンまでと,ギボウシとしては最も北まで分布し,開花期は7月下旬から9月。コバギボウシに近縁で,葉が小さく線形なミズギボウシH.longissima Hondaは,関西と東海を中心に分布する。中国北部の原産で日本で栽植されるマルバタマノカンザシH.plantaginea Aschers.は,葉は黄緑色,花は純白で大きく芳香があり,夜咲きというギボウシのなかでは特異な特徴をもつ。この変種で葉の長いものをタマノカンザシvar.japonica Kikuti et F.Maekawaといい,日本にはこの型の方が多い。

 ギボウシの生育場所は多様で,種により特徴がある。オオバギボウシは草原,林縁,谷沿いの岩上や普通の土壌に広く生えるが,イワギボウシは岩上,樹上に着生的に,またミズギボウシは湿地に限られる。

変異が大きいこと,交雑が容易なこと,種子や株分けによる増殖が簡単なこと,一度植えれば株をつくり長期間生育すること,病害に強く日陰でも育つこと,花は1日花でも花序で次々に咲くことなどの特性は,ギボウシを園芸利用する場合の長所となっている。ヨーロッパには18世紀末までに中国からマルバタマノカンザシとムラサキギボウシH.ventricosa Stearnが入っていたが,日本産のものは1830年ころにP.F.vonシーボルトにより,ライデンの植物園に初めて持ち込まれた。その後,アメリカにはヨーロッパ経由で伝わり,現在,欧米では日本以上の人気を得ている。葉と花序の組合せや,葉だけでも,その清楚という花言葉どおりの東洋的な印象を与えるからであろう。斑入りや交雑による変異品が,園芸的には好まれる。日本産のギボウシは自由に種間交雑するが,組合せによっては,雑種は稔性をもたない。またよく植えられる園芸品種で7月に開花するスジギボウシH.undulata(Otto et Dietr.)Baileyや9月に開花するナンカイギボウシH.tardiva Nakaiは,結実せず,花被内側の着色の仕方や葉形がオオバギボウシ系とコバギボウシ系の中間なので,雑種起源と思われる。ギボウシの栽培は容易で地植えにも適するが,岩上,樹上に着生するものでは通気性に,湿地生のものでは水分の保持に注意が必要である。

 食用にもギボウシは利用されてきた。展開後まもない葉はくせがなく美味で,そのままひたし物,あえ物,汁の実,てんぷらなどにする。塩漬やゆでて乾燥して蓄えられ,葉柄を乾燥した形はカンピョウに似ており,ヤマカンピョウともいわれる。開花前,開花時の花も食用になる。しかし老いた葉の葉身部分は苦みが強くなり,食用に適さない。オオバギボウシは山菜としてよく利用され,関東ではウリッパやウルイ,越後ではアマナの地方名がある。四国ではナンカイギボウシを栽植して食用に利用していた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギボウシ」の意味・わかりやすい解説

ギボウシ
ぎぼうし / 擬宝珠
[学] Hosta

ユリ科(APG分類:キジカクシ科)の耐寒性多年草。東部アジアとくに日本に多く野生し、36種類に分類される。原野、水辺、森林内、岩壁などに野生し、野生地でも変異が非常に多い。トクダマH. tokudama F.Maek.やトウギボウシH. sieboldiana Engl.は広卵形で粉白の大葉が美しく、斑入(ふい)り葉のスジギボウシH. undulata Ball.などはとくに一般的で古来各地の庭に植えられ、いけ花にも使われてきた。楊貴妃(ようきひ)が好んだという大輪の白花で夜開性のマルバタマノカンザシH. plantaginea Asch.は芳香があり、とくに美しい。このほか野生種にイワギボウシ、オオバギボウシ、コバギボウシなどがある。栽培法によって大きさが変わり、葉長1メートルにもなり、小形種を小鉢作りにすると5センチメートルほどにとどまるものもある。大形および中形種の茎は肉質で短く、小形種の茎は繊維質で細く1~7センチメートルに伸び、年々1芽から数芽を出して殖える。1芽からは春に数芽を出す。大部分の種類は、長い葉柄の上に倒卵形で先のとがった平行脈のある葉をつける。葉の形は広狭さまざまである。大きい芽の中央から無枝の花茎を出し、早咲き種は5月、遅咲き種は10月に開花する。花茎は直立か斜上し、長短があり、数花から多数の花をつける。花は6裂片からなる鐘状で、淡紫青色が多い。きわめて強健で、数年に1回株分けして植え換えする。ミズギボウシなど数種を除けば耐乾性は強いが、湿気のある所のほうが成長がよい。耐陰性は種類によって異なる。

 園芸品種はきわめて多く、洋風和風の庭園に適し鉢植えにもよい。欧米では大流行で年々園芸品種が発表され、輸入もされ始めたが、日本では愛好家や品種改良家はまだ少ない。観葉観花の重要な植物であるほかに、根が非常によく張って、傾斜地の土止めや岩壁の崩壊防止にも役だち、密生させると地表の過度の乾燥を防ぐし、古来山菜として各地で葉柄を食用にし、蔬菜(そさい)として利用できる種類もある。

[吉江清朗 2019年3月20日]

 オオバギボウシの基部から切り取った若い葉は山菜として食用となる。ウルイともいう。葉柄をゆでて干したものは山かんぴょうとよばれ、保存食になる。

[編集部 2019年3月20日]

文化史

じみな植物のためか、ギボウシは『万葉集』や平安文学に現れず、江戸時代中期の『饅頭屋本節用集(まんじゅうやぼんせつようしゅう)』に初めて「秋法師(ぎぼうし)」の名で出る。また、中村惕斎(てきさい)は『訓蒙図彙(きんもうずい)』(1666)に、俗にいうギボウシとして玉簪(ぎょくさん)を図示したが、玉簪は本来中国のタマノカンザシである。貝原益軒は『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)で、高麗(こうらい)ギボウシの名をあげている。その種類はさだかでないが、朝鮮からの渡来をうかがわせる。ヨーロッパには、シーボルトが1830年以降にフクリンギボウシ、スジギボウシ、トウギボウシを最初に伝えた。

[湯浅浩史 2019年3月20日]


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百科事典マイペディア 「ギボウシ」の意味・わかりやすい解説

ギボウシ

ユリ科ギボウシ属の総称。東アジアに約20種が分布し,観賞用に栽培される。葉は根生し,長い柄があり,ふつう広楕円形で数本の縦脈をもつ。初夏,包葉のある花茎を伸ばし,包葉の腋にふつう1個ずつ花をつけて総状花序となる。花は横向きに咲き,漏斗状筒形で先は6裂。花色は白色,淡紫色,濃紫色。一日花でふつう朝開き,午後にはしおれる。日本には以下の3種がよく見られる。コバギボウシはやや細めの葉身が葉柄に流れる形の葉を特徴とし,花色は紫味が濃い。北海道〜九州とこの類としては最も広く分布する。オオバギボウシ(トウギボウシとも)は全体大きく葉は長さ30cmを超え,花茎は太く,多数の花をつける。イワギボウシはやや小さくて葉柄に紫点が多く,名のとおり山中の水辺岩上などを好む。ギボウシの名は若い花序の形が欄干の擬宝珠(ぎぽし)に似るところからいう。ふつう香りはないが,中国原産のタマノカンザシは芳香がある。若葉は山菜として食べられ,特にオオバギボウシはウルイ,ウリッパ,アマナなどと呼ばれて賞味される。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ギボウシ」の意味・わかりやすい解説

ギボウシ
Hosta; plantain-lily

クサスギカズラ科(キジカクシ科)のギボウシ属 Hostaの総称であるが,またその一種スジギボウシ H. undulataを単にこの名で呼ぶこともある。この属は東アジアの特産であるが 150年くらい前からヨーロッパでも栽培されている。いずれも多年草で,葉は根もとに集まる。広楕円形で長柄をもつ葉には平行脈が目立つ。夏から秋に,株の中心から花茎を伸ばし総状花序に小型のらっぱ形の 6弁花をつける。花色は濃い紫色のものから,淡紫,白などがあり,園芸品種も多い。花にはおのおの包葉があり,特にオオバギボウシ(大葉擬宝珠)などではこの包葉が大きい。花は一日花で花序の下のものから次々に咲く。東北地方では若い葉柄を「うるい」と呼び,食用とする。花も葉も美しいので昔から庭園で栽培された。

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