日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギボウシ」の意味・わかりやすい解説
ギボウシ
ぎぼうし / 擬宝珠
[学] Hosta
ユリ科(APG分類:キジカクシ科)の耐寒性多年草。東部アジアとくに日本に多く野生し、36種類に分類される。原野、水辺、森林内、岩壁などに野生し、野生地でも変異が非常に多い。トクダマH. tokudama F.Maek.やトウギボウシH. sieboldiana Engl.は広卵形で粉白の大葉が美しく、斑入(ふい)り葉のスジギボウシH. undulata Ball.などはとくに一般的で古来各地の庭に植えられ、いけ花にも使われてきた。楊貴妃(ようきひ)が好んだという大輪の白花で夜開性のマルバタマノカンザシH. plantaginea Asch.は芳香があり、とくに美しい。このほか野生種にイワギボウシ、オオバギボウシ、コバギボウシなどがある。栽培法によって大きさが変わり、葉長1メートルにもなり、小形種を小鉢作りにすると5センチメートルほどにとどまるものもある。大形および中形種の茎は肉質で短く、小形種の茎は繊維質で細く1~7センチメートルに伸び、年々1芽から数芽を出して殖える。1芽からは春に数芽を出す。大部分の種類は、長い葉柄の上に倒卵形で先のとがった平行脈のある葉をつける。葉の形は広狭さまざまである。大きい芽の中央から無枝の花茎を出し、早咲き種は5月、遅咲き種は10月に開花する。花茎は直立か斜上し、長短があり、数花から多数の花をつける。花は6裂片からなる鐘状で、淡紫青色が多い。きわめて強健で、数年に1回株分けして植え換えする。ミズギボウシなど数種を除けば耐乾性は強いが、湿気のある所のほうが成長がよい。耐陰性は種類によって異なる。
園芸品種はきわめて多く、洋風和風の庭園に適し鉢植えにもよい。欧米では大流行で年々園芸品種が発表され、輸入もされ始めたが、日本では愛好家や品種改良家はまだ少ない。観葉観花の重要な植物であるほかに、根が非常によく張って、傾斜地の土止めや岩壁の崩壊防止にも役だち、密生させると地表の過度の乾燥を防ぐし、古来山菜として各地で葉柄を食用にし、蔬菜(そさい)として利用できる種類もある。
[吉江清朗 2019年3月20日]
オオバギボウシの基部から切り取った若い葉は山菜として食用となる。ウルイともいう。葉柄をゆでて干したものは山かんぴょうとよばれ、保存食になる。
[編集部 2019年3月20日]
文化史
じみな植物のためか、ギボウシは『万葉集』や平安文学に現れず、江戸時代中期の『饅頭屋本節用集(まんじゅうやぼんせつようしゅう)』に初めて「秋法師(ぎぼうし)」の名で出る。また、中村惕斎(てきさい)は『訓蒙図彙(きんもうずい)』(1666)に、俗にいうギボウシとして玉簪(ぎょくさん)を図示したが、玉簪は本来中国のタマノカンザシである。貝原益軒は『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)で、高麗(こうらい)ギボウシの名をあげている。その種類はさだかでないが、朝鮮からの渡来をうかがわせる。ヨーロッパには、シーボルトが1830年以降にフクリンギボウシ、スジギボウシ、トウギボウシを最初に伝えた。
[湯浅浩史 2019年3月20日]