日本大百科全書(ニッポニカ) 「クブ」の意味・わかりやすい解説
クブ
くぶ
Kubu
インドネシア、スマトラ島のムシ川とジャンビ川の多数の支流域の森林地帯に住む人々。ベッダ系といわれるが、人種的には不明な部分が多い。おそらくスマトラ島の古い住民の一つ、あるいはその混血と考えられる。非イスラム教徒で、水を極端に嫌って体を洗わず、原始的な生活を送っている。そのためイスラム教徒マレー人から蔑視(べっし)されており、たとえばクブという語もマレー語で不潔、劣等を意味する。クブ人自身はこの名称を嫌い、オラン・ラウト(川の住民)またはオラン・ダラト(陸の住民)という名称を好む。
血縁関係あるいは姻戚(いんせき)関係にある数家族からなる集団、バンドを形成し、森の中で放浪生活を送る。長い木製の投槍(なげやり)でノブタ、サルなどの森の動物、そのほかネズミ、トカゲ、カメ、昆虫などをとり、果実や植物の根を採集する。いも類やバナナを栽培するクブ人もいるが、農耕はマレー人から伝えられたものと考えられる。マレー人の交易者と沈黙交易を行い、鉄器などを手に入れる。住居は長さ2~3メートルの杭上(こうじょう)小屋で、屋根はヤシの葉で葺(ふ)く。伝統的な服装は、樹皮布で腰部を覆うだけである。男は思春期に割礼(かつれい)を行い、また男女とも歯牙(しが)加工を施す。一夫一妻が普通であるが、まれには一夫多妻もみられる。宗教儀礼や病気治療を行うシャーマン的呪術(じゅじゅつ)師がいる。現在ではほとんどのクブ人はマレー人と混住して定住農耕を行い、伝統的な放浪生活を送るクブ人はきわめて少ないと思われる。
[板橋作美]