日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラビコード」の意味・わかりやすい解説
クラビコード
くらびこーど
clavichord 英語
Klavichord ドイツ語
clavicorde フランス語
clavicordio イタリア語
ハープシコードとともに、ピアノの前身となった鍵盤(けんばん)楽器。ハープシコードが弦を掻(か)いて音を出すのに対し、クラビコードは、鍵を下げると鍵の反対側が上がり、そこに取り付けられたタンジェントとよばれる真鍮(しんちゅう)の楔(くさび)で弦を下から打つことで音を出す。クラビコードの起源は、モノコルドや、その弦を複数にしたポリコルドに鍵盤をつけたことにあり、15世紀ごろまでにはその原形ができていたと考えられ、16~18世紀のバロック時代にかけてヨーロッパで広く用いられた。
クラビコードは長方形の胴をもち、胴の長辺の側に鍵盤を配し、弦は鍵盤と平行に(長辺方向に)張られている。初期には、1本の弦を2~4の鍵で共用できる仕組み(共有弦)になっていたが、18世紀には1鍵対1弦(専有弦)になって演奏の自由さは向上し、音域も最終的には5オクターブにまで広げられた。ただし、共有弦の楽器のほうが音色は優れているともいわれる。クラビコードは音量がごく小さいため、もっぱら家庭用の楽器として愛好された。微妙な強弱の変化をつけることが可能で、打鍵後もタンジェントが弦に触れていることを利用して、打鍵のあとに何度か圧力をかけ直して一種のビブラート効果を得るベーブンク奏法のような、独自の奏法も考案された。
[前川陽郁]