クリストフォルス(英語表記)Christophorus

改訂新版 世界大百科事典 「クリストフォルス」の意味・わかりやすい解説

クリストフォルス
Christophorus

3世紀ごろの伝説的聖人。その名は〈キリストを背負う者〉を意味するギリシア語に由来。カナン(一説にはアラビア)出身の大男で,最高の権力者を求めてまず王の臣下となったが,王は悪魔を恐れ,悪魔はキリストを恐れたため,キリストを探す旅に出る。その途中増水した川で,シュロナツメヤシ)の木を杖に多くの人々を渡した。ある夜肩に担いだ小さな子どもは,川を渡るにつれて重くなり,必死で対岸にたどり着いたところ,その子どもはキリストであることを明らかにし,ひじょうな重量は全世界とその創造主のものであるので驚くことはない,と告げた。またシュロの杖を地に植えると実がなるとの予告が実現したため,彼はキリスト教徒となった。後に迫害にあい斬首されたという。刑場へ引かれて行く間に,自分を見て神を信じる者を炎と嵐と地震から救うように祈ったとの伝説から,地震,火事,洪水を防ぐと言われ,古来航海者,旅行者などの守護聖人。昨今は自動車運転手のそれともされ,交通安全の聖人でもある。東方では5世紀ごろから崇敬され,後に西方へ伝わる。中世にはその姿は教会の人目につく所に表され,巡礼者らの安全を守った。美術作品では,一般には小さな子ども(キリスト)を背負い,杖(葉と実がつくことあり)を持つ髭のある大男の姿をとり,水中を歩く姿で描かれることが多い。東方のイコンなどではしばしば犬の顔をしている。祝日は西方で7月25日,東方で5月9日
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クリストフォルス」の意味・わかりやすい解説

クリストフォルス
くりすとふぉるす
Christophorus

半伝説的殉教聖者。祝日は7月25日。伝説によれば、3世紀ごろカナン出身のオフェロとよばれる力の強い人がいた。この世の強い者にあこがれ、王者や悪魔にも仕えて放浪するが、最後にキリストに仕える苦行者を知り、川の渡守(わたしもり)となる。ある夜幼児キリストを背に負って対岸に渡し、以後「キリストを背負う者」(クリストフォルス)とよばれるようになった。その後、布教に努め、サモスで殉教を遂げた。死の直前に「わたしを見つめる者、神に信頼を置く者に、すべての災いとおそれを除こう」と誓いをたてた。ヨーロッパでは不安・苦悩を防ぐ救難聖者として崇拝され、旅、巡礼、運輸にかかわる守護聖者でもあり、教会や橋などの彫刻や絵画に多数造型されている。ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』や芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の『きりしとほろ上人(しょうにん)伝』の原型の一つ。

[植田重雄 2017年11月17日]

『池田敏雄著『教会の聖人たち 下巻』増補改訂版(1981・中央出版社)』『植田重雄「守護聖者の特質と民間習俗化の問題」(『早稲田大学大学院紀要』26集所収・1981)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クリストフォルス」の意味・わかりやすい解説

クリストフォルス
Christophorus

[生]?. ローマ
[没]904
教皇レオ5世(在位 903.8.~9.)の対立教皇(在位 903~904)。"Liber Pontificalis"や "Pontificum Romanorum"など,多くの教皇リストに名前が記載されているが,今日では対立教皇とされる。一時は枢機卿(→カーディナル)であった。903年にレオ5世を教皇位から追い落としたが,904年1月,司教セルギウス(のちの教皇セルギウス3世)の支持者らにより廃位された。記録が現存する唯一の業績は,コルビー修道院の承認である。著述家エウゲニウス・ブルガリウスによれば,クリストフォルスは獄中で絞殺されたとされるが,ヘルマンの年代記では,教皇位を追われ修道士としてその生涯を終えたと記されている。

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百科事典マイペディア 「クリストフォルス」の意味・わかりやすい解説

クリストフォルス

キリスト教の伝説的聖人。名は〈キリストを担(にな)う者〉の意。聖人伝によると,幼児キリストを肩に担って川を渡った巨人。旅行者,航海者の守護聖人で,古来美術,小説などの題材となる。芥川龍之介に《きりしとほろ上人伝》がある。祝日は西方で7月25日,東方で5月9日。

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世界大百科事典(旧版)内のクリストフォルスの言及

【守護聖人】より

…そのために聖人の生涯の事跡や伝承のなかで,それぞれの職業と何らかのかかわりをもつ聖人が守護聖人として選ばれた。たとえば幼児イエスを背負って川を渡ったとされる伝説的巨人クリストフォルスは救難聖人auxiliary saints(緊急の際に,信者がその名を呼んで代願を求める聖人で,通常14人があてられる)の一人で,船乗りの守護聖人とされている。またアガタは拷問ののちに火で焼かれて殉教したために,火事から人々を守る守護聖人とされている。…

【ナツメヤシ】より

… 初期のキリスト教徒も,ヤシの葉を死の克服や信仰の勝利の象徴と見て,カタコンベの浮彫装飾などに多用した。幼子イエスを肩にのせて川を渡したという聖人クリストフォルスは,ヤシのつえを頼りに流れを渡りきったとされる。また,受難を前にしたキリストがエルサレムに入城したとき,民衆がヤシの葉を道に敷いて彼を迎えた故事から,英語では復活祭直前の日曜日を〈パーム・サンデーPalm Sunday(枝の主日)〉と称し,この日にはヤシの小枝(じつは葉)を手に持つことになっている。…

※「クリストフォルス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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