クリーピングインフレーション(その他表記)creeping inflation

改訂新版 世界大百科事典 の解説

クリーピング・インフレーション
creeping inflation

景気は沈滞し,失業率も上昇しつつあるような時期に,物価がなお年率で2~3%程度のゆるやかな上昇を続ける状況をさす。creepingは〈忍びよる〉の意味であり,不況下の物価上昇(スタグフレーション)が注目された1957,58年ころのアメリカで定着した用語である。すなわち,初期のケインズ経済学においては,インフレ・ギャップの考え方にうかがえるように,インフレはもっぱら超過需要(総需要が完全雇用産出高を超えること)によって起こるものとされた。そこで有効需要が完全雇用産出高に満たない不況時に,なぜ物価上昇が起こるのか新たな説明を必要としたわけである。そして当時は,総需要レベルは一定であっても,需要構成が変化すると,需要が増加した部門では当然価格は上昇するが,他方需要が減少した部門でも価格は下方硬直的で下がらないため,全体として物価水準が上昇する,という需要シフト・インフレ論demand-shift inflationによる説明がなされた。現在では総供給曲線が上方にシフトすることにより起こるインフレーションをコストプッシュ・インフレと呼ぶが,この需要シフト・インフレ論は,需要構成の変化により総供給曲線が上方にシフトする,というひとつのメカニズムを示している。

 いずれにせよ,1950年代終りから60年代前半のアメリカ経済では,クリーピング・インフレーションとしてインフレを警戒したのに対して,70年代の二けたインフレを経た現在では,同じ言葉が,比較的物価が安定している状態の意味に用いられることが多い。
インフレーション
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

クリーピング・インフレーション
creeping inflation

忍び寄るインフレーション,マイルド・インフレーション mild inflationともいい,供給が超過ぎみであるにもかかわらず,物価が持続的に漸騰していく現象をいう。 1950年代後半のアメリカで顕著にみられた現象で,特に 1957~58年の景気後退期にも物価は下がらず,じりじりと上昇を続けたため,かつてみられなかった新しい物価動向として注目された。その原因については,コスト=プッシュ・インフレーション説のほか,C.L.シュルツの需要シフト説などがある。シュルツは寡占経済下で価格と賃金下方硬直性が存在するとき,たとえ総需要が総供給を上回らなくても,部分的に超過需要が発生すると一般的な物価上昇が起るという説明をしている。なお逆に「駆け足」で上るような急激な物価上昇をギャロッピング=インフレーション (→ハイパー=インフレーション ) という。

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世界大百科事典(旧版)内のクリーピングインフレーションの言及

【インフレーション】より

… インフレーションは,インフレ率,つまり物価指数の上昇率の大きさによって,クリーピングcreeping(忍び足),ギャロッピングgalloping(駆足),ハイパーhyper(超)等の形容を付されることがある。おおまかに年率数%以下がクリーピング・インフレーション,10%を超えるとギャロッピング・インフレーションといわれるが,月率数十%以上になるとハイパー・インフレーションになる。このほかにも1970年代にポピュラーとなった〈2けたインフレdouble digit inflation〉という形容もある。…

※「クリーピングインフレーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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