ロシアの作家レフ・トルストイ後期の中編小説。1890年発表。早春、長旅の夜汽車のなかで、新旧両世代の結婚観が論争の的となっているところへ、突然「愛を神聖化する愛とはなにか」と形相すさまじく初老の男が挑んできた。彼はポズドヌィシェフ(「遅すぎた男」の意)といい、娼婦(しょうふ)を相手に放蕩(ほうとう)のすえ、清純な娘を求めて家庭をもつと、妻を一方的な肉欲の対象として扱い、8年間に5人もの子供をもうけたが、精神生活の貧しさから、バイオリン教師と『クロイツェル・ソナタ』をピアノで演じる妻を嫉妬(しっと)のあまり刺殺した話題の人物であった。妻の姦通(かんつう)が認められ無罪となったいまでは、男女間の愛は肉欲を正当化する口実にすぎず、人間の理想は禁欲にあると悟り、たとえ純潔が種の絶滅につながろうとも、完全な性愛の否定を真理として実行に移すべきだと主張する。
40年前のトルストイは『家庭生活の幸福』(1857)のなかで同じテーマを追求しながらも、性愛の危機を友愛と農村での勤労生活によって回避したが、農奴制崩壊後の現実は両性関係の見せかけの安定性を突き崩したのである。夫婦生活の幸・不幸の問題は『戦争と平和』(1864~69)と『アンナ・カレーニナ』(1873~76)で対照的に提示されたが、ここでは後者の傷口が性の問題を中心により鋭く切開されている。チェーホフは、この作品の「後語」に展開されたトルストイの極端な性愛否定の非科学性を批判しつつも、この病める世紀末的問題への大胆なアプローチを世界的な意義において高く評価した。日本では尾崎紅葉(こうよう)監訳(1895)で早くから話題をよび、幸徳秋水(こうとくしゅうすい)、堺枯川(さかいこせん)ら初期社会主義者の好個の論題ともなった。
[法橋和彦]
『『クロイツェル・ソナタ』(米川正夫訳・岩波文庫/原久一郎訳・新潮文庫)』
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