日本大百科全書(ニッポニカ) 「グリセリド」の意味・わかりやすい解説
グリセリド
ぐりせりど
glyceride
グリセロール(グリセリン)と脂肪酸とのエステル化合物の総称。グリセリン脂肪酸エステルともよばれ、結合している脂肪酸残基(アシル基)の個数(1~3)により、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドの3種がある。また、そのアシル基が1種であれば単一グリセリド、2種または3種のアシル基を含むものを混合グリセリドとよぶ。国際化学連盟はグリセリドの正規化学名をアシルグリセロールと定め、アシル基組成を表示するには に示したようにアシル基名を接頭表記することとしたが、総称としてのグリセリドの呼称は一般に用いられている。
[大川いづみ]
性状
アシル基の個数、種類により性状は異なるが、概して水に不溶で有機溶媒に溶ける。常温で液体のものも固体のものもあるが、アシル基の炭素鎖が長いほど、また二重結合(不飽和結合)が少ないほど融点が高くなる。無色、無臭で、比重は水より小さい。二重結合が多いと酸素と光に触れて酸化変性する傾向が強い。なお、天然のアシル基は炭素2個の酢酸が重合して合成されるため、その炭素数は偶数に限られる。
[大川いづみ]
存在・用途
トリグリセリドは動物や植物種子のエネルギー貯蔵物質として天然に大量に産する。動植物油脂または食用油、中性脂肪、単純脂質といわれるものの主成分は、すべて混合トリグリセリドである。1グラム当り9キロカロリーと糖質やタンパク質の2.2倍のエネルギーを供給できる。エネルギー量に比して軽く、それぞれの動物の体温において脂肪組織は柔らかい状態を保てるので、運動する動物にとって大量のエネルギーを体内に蓄積するための唯一の物質である。ウシ、ブタなど体温約37℃の動物の脂肪(鯨油も含む)にはパルミチン酸(炭素数16、二重結合0。以下同じ)、ステアリン酸(18、0)、オレイン酸(18、1)の残基が多く室温で固体であるのに対し、低温で成長する植物油や魚の油ではステアリン酸が減じ、オレイン酸、リノール酸(18、2)、リノレン酸(18、3)残基が多く、室温で液体である。採集、精製、ときに融点を高めるなどの加工をしておもに食用油とするほか、加水分解してせっけんとグリセリンの材料にする。
モノおよびジグリセリドは天然に大量には存在しないが、油脂から化学合成される。モノグリセリドは1910年ごろから工業的に製造され、乳化剤、安定剤としてマーガリン、アイスクリームほか多様な加工食品に添加されている。デンプンのアミロース、アミロペクチンと作用しその老化を防ぐ効果もあるので、パンの硬化防止のためにも添加される。
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構造脂質
1990年代から健康志向の改造グリセリドが開発され「構造脂質」とよばれている。トリグリセリドの脂肪酸を一つはずしたジグリセリドは食用油のように使えるが、消化管からの吸収が低率のために「体脂肪蓄積抑制効果」があるとして特定保健用食品に指定された。エステル交換反応で既存のグリセリドのグリセロールの特定の位置に特定のアシル基を結合したものも開発された。一例をあげれば炭素数22の長鎖脂肪酸1個、炭素数8の中鎖脂肪酸2個を結合したトリグリセリドは、食用油としての性状は変わらないが肥満にならないという。油用植物の品種改良によって好ましい脂肪酸組成を得た例もある。在来の菜種油ではエルカ酸(22、1)という脂肪酸の含有量が50%にもなり、長期摂取すると心筋症を引き起こす恐れがある。品種改良で創出されたキャノーラ種ではエルカ酸含量が0.6%で、この新品種が菜種油の主要原料となった。
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