改訂新版 世界大百科事典 「ケイ質軟泥」の意味・わかりやすい解説
ケイ(珪)質軟泥 (けいしつなんでい)
siliceous ooze
海洋堆積物の一種。生物の遺骸を重量の30%以上含む堆積物を軟泥oozeと呼び,その成分によりケイ質軟泥と石灰質軟泥に大別される。ここでケイ質とは,石英(結晶質シリカSiO2,おもに陸源)ではなくて,生物体を構成する,水分子を持つ非晶質シリカ(オパール質シリカSiO2・nH2O)を多く含むという意味である。海水中からシリカを抽出してオパール質シリカの殻をつくり,その死殻が堆積物中に保存される生物はケイ藻,放散虫,ケイ質鞭毛藻とカイメンである。これらの生物の中で海底堆積物中に最も多量に含まれ,地理的に広く分布するのはケイ藻と放散虫である。それぞれの殻の重量が堆積物の重量の30%以上を占める場合,それぞれケイ藻軟泥,放散虫軟泥と呼び,両者を一括してケイ質軟泥と呼ぶ。これらの生物が堆積物中に含まれる割合はこれらの生物が表層海水中に生産される割合,その死殻が海底に沈降するまでに溶解する割合と陸源堆積物の堆積速度によってきまる。一般に放散虫はケイ藻より溶解に強い。表層海水中におけるそれぞれの生物の生産量に対応し,放散虫軟泥は赤道海域に広く分布し,ケイ藻軟泥は南極海や北西太平洋に,また局部的には赤道海域に分布する。
放散虫軟泥
東部太平洋の赤道帯(南・北緯15°くらいの間)に最も著しく分布するが,北西太平洋赤道部とインド洋赤道部にも広く分布する。乾燥状態の比重は0.4~0.8で非常に軽い。上記赤道帯は海底からの湧昇流のある地帯なので,表層水には放散虫も有孔虫も多い。したがって有孔虫の石灰殻が溶ける炭酸塩補償深度すなわち4500~5000mより深い海底にのみ放散虫軟泥の分布は限られ,それより浅い海底には石灰質軟泥である有孔虫軟泥が分布する。南・北両半球の高緯度にも放散虫がやや多い所があるが,赤道帯にくらべると非常に少ない。しかし放散虫殻の保存状態は高緯度の方が良く,完全な殻が破片より多い。
ケイ藻軟泥
乾燥比重は0.4~0.9,ときに0.2のものもある。南極海の大陸棚以深の海底に,南極大陸をとりまいて幅250~600kmにわたって顕著に分布する。その北限は南極収束線にほぼ対応し,また年平均海水温度の10℃等温線に一致する。北半球では北部太平洋(アラスカ沖から日本付近まで)のみに分布し,南限は北緯40°で,日本付近ではやや南まで延びており,黒潮と親潮の境界の位置に関係する。以上寒冷系のケイ藻軟泥のほかに赤道帯にもエスモディスクスEthmodiscus rexが優占する(95%以上)エスモディスクス帯と呼ばれるケイ藻軟泥が分布している。この種は直径2mmにも達する大型の種で,非常にこわれやすく,乾燥試料中では完全な個体はまれであって,ほとんどすべて破片である。本種は太平洋(東太平洋を除く),インド洋,大西洋の熱帯海域(水深4600~10000m以上)に局部的に知られている。エスモディスクス軟泥は厚さ10mを超えることがあり,容易に低い方へ移動する。
→海底堆積物
執筆者:内尾 高保
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報