改訂新版 世界大百科事典 「石灰質軟泥」の意味・わかりやすい解説
石灰質軟泥 (せっかいしつなんでい)
calcareous ooze
遠洋堆積物の一種で,石灰質の殻をもった生物の遺骸(死殻)が堆積物の重量の30%以上を占める場合に,その堆積物を石灰質軟泥と呼ぶ。その生物はベントスでもネクトンでも,また幾つかの異なった生物の混合でもよいが,量的にみると大部分はプランクトンである。石灰質軟泥はその中の優占する生物の名前をとって有孔虫軟泥と翼足類軟泥に分けられる。色は褐色がかった灰白色で,軟らかく,粒度組成は褐色粘土,ケイ質軟泥より一般に粗い。化学組成の一例を表に示す。
(1)有孔虫軟泥foraminiferal ooze 最も典型的な石灰質軟泥で,古くからグロビゲリナ軟泥globigerina oozeという名で知られ,炭酸石灰を50~80%含むものが多い。この軟泥を62μm(250メッシュ)のふるいで水洗すると,網目上に残った部分はほとんど浮遊性有孔虫(グロビゲリナ超科)の殻であり,網目を通過した細粒部はコッコリス類の殻片を無数に含んでいる。コッコリス類は浮遊性の黄緑色藻類で,大きさは一般に数μmであり,電子顕微鏡を用いないと正確な学名がわからないので,最近までは無視されてきた。しかし,石灰質軟泥には62μm以下の粒子が大部分である場合が少なくない。したがって,細粒石灰質軟泥をコッコリス軟泥coccolith oozeと呼び,粗粒のものを有孔虫軟泥と呼ぶのが適切である。現世の石灰質軟泥は有孔虫軟泥が多く,更新世の氷期や第三紀のものはコッコリス軟泥が多いようである。有孔虫・コッコリス軟泥は,A.P.ビノグラードフによれば全海底面積の約47%を占め,熱帯,亜熱帯の水深数百mから4500mに広く分布する(1967)。炭酸石灰の殻は水温が低いほど,また圧力が高いほど水に溶解しやすく,したがって水深約4500~5000m以上になると完全に溶解する。この水深を炭酸石灰の補償深度という。北太平洋は水深が深いので天皇海山列のような海底の高まり以外に分布しないが,南太平洋では南西太平洋海盆を除き広く分布する。インド洋では浅い西半分に広く分布する。大西洋では大西洋中央海嶺を軸として北はノルウェー沖まで分布する。分布の南限は三大洋とも南緯50°くらいで,ケイ質軟泥と接する。
(2)翼足類軟泥pteropod ooze 翼足類は一般に4~8mm,ときに20mmに達する比較的大きな殻をもつ浮遊性軟体動物で,おもに北緯35°から南緯35°にわたり分布する。その石灰殻は鉱物学的にはアラゴナイトより成り,浮遊性有孔虫の石灰殻(方解石より成る)より深海では溶解しやすい。したがって,翼足類軟泥は熱帯,亜熱帯の水深約1800m以浅の海底の高まりに分布し,A.P.ビノグラードフによれば,全海底面積の約0.6%を占めるにすぎない(1967)。すなわち大西洋中央海嶺の南緯10°~35°,カリブ海,太平洋のサンゴ海やモルッカ諸島,カロリン諸島,フィジー諸島,トゥアモトゥ諸島の海域などに斑点状に分布する。この軟泥中には翼足類の殻は多くても25~40%で,一般に浮遊性有孔虫,浮遊性軟体動物の異腹足類Heterogastropoda,底生有孔虫などの殻を伴う。なお分布図に関しては〈海底堆積物〉の項目を参照されたい。
執筆者:内尾 高保
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報