日本大百科全書(ニッポニカ) 「けれん」の意味・わかりやすい解説
けれん
歌舞伎(かぶき)演出用語。一般に観客の意表をつくことを目的とし、スピードとスリルを重んじる演技、演出をいう。俳優が文楽(ぶんらく)の人形を模して動く「人形振り」、短時間のうちに多くの役を替わってみせる「早替り」、舞台で本物の水を使う「本水(ほんみず)」などや、「宙乗り」をはじめ軽業(かるわざ)的な演技と大道具の手のこんだ仕掛け物を使う演出がこれにあたる。江戸末期、太平に飽いて刺激を求める観客の嗜好(しこう)に応じて発達した。本来は義太夫節(ぎだゆうぶし)の用語で、たとえば竹本座系の太夫が豊竹座(とよたけざ)系の流儀で語るというように、他流の節で語るのを「外連(けれん)」とよんだのが最初である。したがって、正統でない芸という意味があり、いくらか軽侮の意をこめて使われてきたが、反面、歌舞伎は本質的にそういう要素を含んだ演劇であるという見方もあって、近年3世市川猿之助はとくにこれを強調し、「けれん」とよばれる演出を多く用いて注目されている。
[松井俊諭]