歌舞伎舞踊のこと。〈所作〉また〈振事(ふりごと)〉〈景事(けいごと)〉とも。歌舞伎の文献では1687年(貞享4)の《野良立役舞台大鏡》にみえるのが古く,所作事ははじめやつし事として,職業の意味での所作から,職業とくに職人の動きを舞踊に写したものであった。その後,しだいに歌舞伎舞踊一般の総称となるが,おもに長唄物をさしていい,浄瑠璃物は単に浄瑠璃または浄瑠璃所作事という。振事は,歌舞伎舞踊の動きが物真似的な〈振り〉にあることから,また景事はとくに上方で,道行の景色を舞うことからいう。享保から宝暦期(1716-64)に初世瀬川菊之丞,初世中村富十郎によって女方芸として洗練され,安永・天明期(1772-89)には9世市村羽左衛門,初世中村仲蔵ら立役が進出し浄瑠璃所作事の隆盛をみ,また文化・文政期(1804-30)に至って〈兼ねる〉役者の3世坂東三津五郎,3世中村歌右衛門らがいくつもの役柄を続けて踊る変化(へんげ)物を流行させた。所作事の上演には,花道,本舞台に所作舞台を敷き,出語り,出囃子となることがある。また,一日の番組の最後の所作事を〈大切所作事〉〈大切浄瑠璃〉という。
→歌舞伎舞踊
執筆者:板谷 徹
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舞踊または舞踊劇のこと。振事(ふりごと)・景事(けいごと)というのと同義。「所作」は元来はしわざ・ふるまいの意味の一般語であったが、中世には芸能用語として、舞を舞うとか楽器を奏するとかの動作をさすようになる。歌舞伎(かぶき)に入っては、とくに舞踊的な動作をさしていうようになり、有名な佐渡島長五郎の『しょさの秘伝』もその用法の例である。宝暦(ほうれき)年間(1751~64)には「こと」の一つとして概念が定着し、もっぱら舞踊と同義になる。一編の所作事は「置き」に始まり、「道行(みちゆき)」を経て、「語り」「くどき」「踊り地」といった中心部に移り、やがて「ちらし」または「段切れ」をもって終わるという類型の構成をとるのが普通である。景事という用語は上方(かみがた)で使われたが、もともと初期歌舞伎の道行舞踊をさしていったところから出たもので、あまり一般的には使われない。所作事は原則として長唄(ながうた)物をさすときに用い、常磐津(ときわず)・清元(きよもと)など浄瑠璃(じょうるり)を地とするときは「浄瑠璃」もしくは「浄瑠璃所作事」というのが普通であるが、近年は混乱して用いられることも多い。所作事を上演するときは、花道・本舞台に所作舞台を敷き、伴奏音楽は出語(でがたり)・出囃子(でばやし)の形式をとることが多い。
[服部幸雄]
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…《菅原伝授手習鑑》《仮名手本忠臣蔵》《義経千本桜》をはじめ《夏祭浪花鑑》《双蝶々曲輪日記(ふたつちようちようくるわにつき)》《一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)》《源平布引滝》など,現代の歌舞伎における〈丸本物〉の代表的レパートリーになっている作品の大半のものは,この時期に創作され,ただちに歌舞伎化されたものである。 このころ,初世瀬川菊之丞,初世中村富十郎ら女方の名優たちの活躍によって,〈所作事〉が確立する。所作事は女方のものとされ,いずれも長唄を地とした。…
…お国に追随した遊女歌舞伎も,女性芸能いっさいの禁止で出現した若衆歌舞伎も,その中心はレビュー式の〈総“踊”―大踊〉であった。若衆歌舞伎から,その禁止後に登場する野郎歌舞伎になるころ,“舞”の系統が注入され,さらに女方の発生により若衆から女方に舞踊の中心が移り,元禄期(1688‐1704)に,劇的な“振り”の物真似要素を加えた〈所作事〉が確立する。次の享保から宝暦期(1716‐64)に女方舞踊全盛期を迎え,石橋(しやつきよう)物,道成寺物の名作が生まれる。…
…〈しぐさ(科)〉と〈せりふ(白)〉を中心としたいわゆる〈科白劇(かはくげき)〉に対し,舞踊を主要素として仕組んだ劇のこと。歌舞伎風の呼名でいえば,〈所作事(しよさごと)〉〈振事劇(ふりごとげき)〉がこれにあたる。舞踊により単なる場面や情景を舞台上に示すだけでなく,それらの有機的な連関によって,なんらかのストーリーを構成するものをいう。…
※「所作事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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