日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケワタガモ」の意味・わかりやすい解説
ケワタガモ
けわたがも / 毛綿鴨
eider
鳥綱カモ目カモ科ケワタガモ属に含まれる鳥の総称。この属Somateriaの仲間は北極圏特産の潜水ガモで、全長約53~60センチメートル。次の3種がある。ホンケワタガモS. mollissimaは大形の種で6亜種があり、雄の体は下面が黒色、上面は白色、嘴(くちばし)に続く鼻部がV字状に伸びる。ケワタガモS. spectabilisは嘴が赤く鼻部が広い板状で、日本にも迷鳥の記録がある。メガネケワタガモS. fischeriは目の周囲が広く白い。近縁種には全長約45センチメートルと小形で別属のコケワタガモPolysticta stelleriがあり、日本には迷鳥として訪れる。これらの種の雌はいずれもマガモの雌に似て、赤褐色に黒斑(こくはん)のある枯れ草色の保護色をしている。ツンドラや岩のある草地などに営巣し、多量の綿羽を抜いて敷き、さらに卵を覆って保温と保護に用いる。この綿羽は昔から寝袋や衣類、ふとんなどの保温用詰め物に利用されてきた。好条件の所には分布密度の高い縄張りをもって営巣し、1腹5卵を産む。約26日で孵化(ふか)し、雌と雛(ひな)は数家族が合流し、雄は別群をつくる。繁殖に続いて換羽し、雛が飛力を得るころ親も新羽となる。一定の換羽地に換羽のための渡りを行う場合もある。潜水は16メートルぐらいが限度で、とる餌(えさ)は甲殻類や軟体動物などの動物質が多く、植物質は少ない。
[黒田長久]