翻訳|caisson
基礎あるいは港湾工事に用いられる箱状もしくは円筒状の構造物。ケーソンを利用して基礎を築造するケーソン工法は,適当な支持層が地中の深いところに存在するが,土止めや仮締切りをしただけではその深さまでの掘削が困難な場合,すなわち転石などが存在したり,土質や水深の関係で地下水位の低下が困難なときに有効な工法である。ケーソンには鉄筋コンクリート製のほか鋼製や木製のものもあり,またその形状や施工法によって,ボックスケーソン,オープンケーソン,空気ケーソンに分類される。
(1)ボックスケーソン 港湾工事で防波堤,護岸,岸壁あるいは潮止め用締切堤などの構造物の主体として用いられる,底の付いた箱状のもの。陸上またはドックで製造しておき,これを所定の位置まで水上を浮上曳航するか大型クレーン船でつって運搬し,あらかじめ準備した基礎上に据え付け,内部に石,土砂,コンクリートなどを中詰する。なお,構造物の基礎に用いる場合には設置ケーソンと呼ぶ。(2)オープンケーソン 井筒,ウェルあるいはオープンウェルなどとも呼ばれる。蓋(ふた)も底もない円形,長円形,小判型などの断面の筒状の構造物で,20~50m程度の深さにある支持地盤に上部の荷重を伝達する。橋脚や橋台あるいは建物の基礎として用いられているが,炭鉱の立坑として利用された例もある。通常は地上または築島上に刃口を据え付け,その上部に高さ3~4m程度の筒を築造したのち,その内側を掘削して筒を自重で沈下させる。沈下にしたがって上部に筒を継ぎ足すが,沈下促進のためジェット水を噴出させたり,荷重を載せることがある。支持地盤に到達すると底にコンクリートを打設し,必要に応じ土砂を中詰する。日本への導入は明治初期である。(3)空気ケーソン ニューマチックケーソン,潜函(せんかん)とも呼ばれている。通常,長方形,小判型の断面をもつ筒状の構造物で,先端部に作業室と呼ばれる蓋付きの空間を作り,その内部に外部の水が入らないように高圧の空気を送り込む。作業員が作業室内に入って土を掘り出しながらケーソンを沈下させる(図)。人などの出入りや土の排出は鉛直のシャフトとエアロックを通じて行い,沈下終了後,載荷試験を行ってから作業室をコンクリートで閉塞する。オープンケーソンと同様な目的で使用され,地盤を直接確認しながら作業を進められる利点はあるが,人が作業できる限界は3.5気圧であるので,空気ケーソンの水面下の深さは最大35mであると考えてよい。ヨーロッパでは1850年ごろから利用されており,日本には1900年ごろ導入され,関東大震災後の復興時,隅田川の橋梁(きようりよう)基礎を作るのに用いられて以来盛んに利用されるようになった。なお,空気ケーソンでは,高圧下での作業後の減圧に伴って体内組織中に溶けていた空気中の窒素分が気泡化してケーソン病(潜水病)を引き起こす危険があるので,気圧に応じた作業時間,気圧の増減時間の規制を行う必要がある。
執筆者:藤田 圭一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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