共通語(読み)きょうつうご

精選版 日本国語大辞典 「共通語」の意味・読み・例文・類語

きょうつう‐ご【共通語】

〘名〙
それぞれ異なる言語を用いる集団の間の伝達のための言語。中世ヨーロッパにおけるラテン語や現代の国際社会における英語など。
② 一つの国の中で、地域、階級の違いを超えて通用する言語。日本では方言に対立する言語で、その基盤を東京語に置く。規範的な意味あいを持った「標準語」に対していう。
[語誌]②は、国立国語研究所が一九四九年に福島県白河市で行なった言語生活の実態調査の報告書「言語生活の実態」(一九五一)で、「全国共通語」の略として用いたのが最初。この書で「標準語」を「なんらかの方法で国として制定された規範的な言語」と定義し、それは「日本ではまだ存在しない」という立場から「共通語」という語を用いたもの。

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デジタル大辞泉 「共通語」の意味・読み・例文・類語

きょうつう‐ご【共通語】

それぞれ異なる言語を用いている集団の間で、相互に意志を通じ合うことのできる言語。
一つの国の中で、地域・階層の違いを超えて通用する言語。日本ではその基盤を東京語に置いている。規範性をもつ「標準語」という用語と分別するために使用される語。
[類語]標準語国際語

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改訂新版 世界大百科事典 「共通語」の意味・わかりやすい解説

共通語 (きょうつうご)

言葉が違ってお互いに通じない時に使われる第三の言葉。古代ギリシアのコイネー,アフリカのスワヒリ語,現在の世界各地での英語などがこの例である。しかし日本では,〈国内の広い地域で共通に理解される,方言以外の言葉〉の意味で使われることが多い。

 第2次大戦前は〈方言〉と対立する概念は〈標準語〉といわれたが,戦後〈共通語〉という術語が広がった。標準語と共通語は区別できる。標準語は,理想としての正しい言葉であり,人為的取捨選択を経て定められるべきもので,現実の言葉としては存在しない。これに対し共通語は,現実に使われている言葉であり,地域や人により発音や文法・単語が異なっても許容される。国語教育でいう共通語もこの意味のものである。この共通語は二重に共存性を示す。第1に共通語の内部には異なった地理的背景をもった表現が共存する。デンデンムシカタツムリ,ケドとケレドとケレドモのように文体(堅苦しさ)の違うもの,ムツカシイとムズカシイのように使いわけのほとんどない〈ゆれ〉などがある。第2に,戦前の標準語が唯一の国語として強制されたのに対し,戦後の共通語教育では,方言との共存が基本方針とされた。着物によそゆきとふだんぎがあるように,言葉でも場面に応じて共通語と方言を使い分けさせようとしたのである。

 今日,放送,学校教育,会議講演で使われる言葉は共通語である。また東京山の手の中流家庭の言葉が共通語の例とされる。現実に日本各地のさまざまな人に使われている言葉は,共通語と方言がいろいろな程度に入り混じったものと,一般に意識されている。したがって,共通語と方言は切れ目のない連続体であって,共通語はさまざまな程度に方言色(または標準語への近さ)を示す,という見方がある。しかし,共通語と方言の間に中間段階を設ける考えもある。例えばイイッショ(いいでしょう)の〈ッショ〉は北海道の共通語,モータープール(駐車場)は関西の共通語といえる。また各地で使われている共通語は,アクセントなどについては,東京のものと一致しないことが多い。以上のように地方色を帯びた共通語を〈地方(地域)共通語〉と呼んで,標準語に近いものとしての〈全国共通語〉と区別し,さらに方言とも違うとする考え方がある。どのような共通語が使われるかには地域差が大きく,北海道を別にすると,東京付近ほど全国共通語に近い言葉を使う。またどの地域でも若い人ほど全国共通語に近づく現象が認められ,これを〈共通語化〉と呼ぶ。文字表記に表れないアクセントについては,共通語化が困難といわれていたが,最近は,音韻,文法,単語だけでなくアクセントでも共通語化が盛んである。また,多くの地域で一個人が場面に応じて共通語と方言を使い分ける現象が見られ,あらたまった場面ほど共通語がよく使われる。このように,共通語は現実に全国に普及しつつある。
方言
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百科事典マイペディア 「共通語」の意味・わかりやすい解説

共通語【きょうつうご】

たがいに通じないことばがあるとき,双方の話者が理解できる第三のことば。リングア・フランカとも。異なる地域や集団間で理解されうる言語という意味でも使われる。ギリシア語コイネーや,アフリカ東海岸のスワヒリ語などがある。共通語を人為的に作ろうとする国際語の試みもある。また,世界中で通用度の高いという意味で英語を含めることもある。日本では方言に対する概念は標準語とされ,国語教育において標準語への統一が図られた。第2次大戦後は,標準語にかわって全国でひろく理解されうることばとして共通語という概念が広まり,方言と共通語の共存がめざされた。→クレオールピジン
→関連項目英語タガログ語ネパール語ハウサ語リンガラ語

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「共通語」の意味・わかりやすい解説

共通語
きょうつうご

(1)言語を異にする国や種族の間でのコミュニケーションに使われる言語。中世のラテン語、現代の英語など。エスペラント語などの人工語も含まれる。

(2)一言語内の方言を異にする地域の人々の間に用いられる共通の言語。方言と対立する概念としての、全国に通用することばの意である。日本では、東京方言に基礎を置く文字言語によって支えられている。「標準語」との関係は諸説があるが、大別して、同義とする立場と、標準語が全国唯一の規範的で理想的な言語なのに対し、緩い規範の現実的言語とする立場がある。この意味での共通語からは、音声面(とくにアクセント)の規定は除かれることがある。

(3)比較言語学で、共通基語(祖語)の意で用いられることがある。

[上野善道]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「共通語」の意味・わかりやすい解説

共通語
きょうつうご
common language

いろいろの意味に使われるが,大別すれば,(1) いわゆる方言に対する標準語と同じ意味であるが,「標準語」のもつ規範性を避けるために用いる。 (2) 標準語を今後つくっていくべき全国に一つしかない理想的な言語とし,それに対して実際にいまコミュニケーションの手段として全国的に通用しているものをさす。これを「全国共通語」と呼び,より狭い地域に通用しているものを「各地共通語 (地方共通語) 」とし,ある言語社会をとれば,そこにはその土地の方言,その土地の共通語および全国共通語が行われているとする立場もある。 (3) 中世のラテン語,現代の英語のように,言語を異にする国の間のコミュニケーションに使われる言語をさす。これが元来の意味の共通語である。なお,(4) 比較言語学でいう祖語,共通基語の意味に用いられることもある。

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世界大百科事典(旧版)内の共通語の言及

【アナウンサー】より

…これはなによりも言語表現において明らかである。アナウンサーの言語表現は,いわゆる標準語あるいは共通語として一種の規範性をもつものとされてきた。日本では東京,山手の言語表現を基礎とした標準語が,放送をとおして全国に規範として普及した。…

【言語】より

…2000台から3000台の数値が示されることが多いようであるが,一つの言語と認める基準をかえることによって数は大きく変動する。同一地域内に複数の言語が存在する場合,相互の意思疎通のために〈共通語〉が発達することがある。もとからある言語の一つが共通語となることもあるし,一種の混合語(ピジン・イングリッシュなど)が生ずることもあり,また,性格的にその中間のものが生ずることも多い。…

【言語政策】より

…たとえばスペインのフランコ政権はカタルニャ語による書物の出版を禁止していた。しかし旧ソ連や中国のような超大国家は,それぞれロシア語と中国語を共通語として強制的に国民に教育する反面,少数民族の言語を文化語として確立させるよう配慮してきた。旧ソ連の言語政策について,少し詳しく説明すると,旧ソ連内の少数民族は,まず民族言語の方言の中から標準語を設定し,これに正書法を与えて伝達と文芸の表現手段として活用するように助成された。…

【コイネー】より

…〈共通語common dialect〉の意。古代ギリシアでは前5世紀にアテナイが政治・文化の中心になるとともに,その言語であるアッティカ方言Atticが,他の方言を抑えてギリシア語を代表する位置を占めるにいたった。…

【方言】より


【方言の概念とその周辺】

[方言と俚言・訛]
 学問的には〈方言〉を,ある地域で使われる言葉の全体を指す用語として使う。しかし一般に〈方言〉というと,個々の単語,しかも共通語と語形の違うものを指していうことも多い。観光みやげの手ぬぐいやのれんなどに取り上げられたり,いわゆる〈方言集〉に載るのがこれである(たとえば鹿児島なら〈おいどん=私〉〈おごじょ=娘〉〈よかにせ=好男子〉などといった単語)。…

【母語】より

… 以上は,話し手の側から見た母語の位置づけであるが,言語の側から見て,それを母語とする集団が存在するか否かという観点も非常に重要である。圧倒的多数の言語は,それを母語とする集団を有するが,その言語がたとえば交易上の共通語として形成されたような場合,その話し手の誰にとってもそれは母語でないということがありうる。そのような言語は,その性格上,人間生活のあらゆる面で,意思伝達の手段として十分に機能するということを必要としないので,言語としてもかなり不完全なものである。…

※「共通語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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