国際語(読み)コクサイゴ

デジタル大辞泉 「国際語」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐ご【国際語】

世界の各民族・各国の間で、広く共通に使われている言語。外交語としてのフランス語、商業語としての英語などの類。
言語を異にする民族・国家間相互の意思伝達を容易にするなどの目的のために人為的に考え出された言語。エスペラントなどの類。国際補助語世界語
[類語]共通語標準語

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精選版 日本国語大辞典 「国際語」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐ご【国際語】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 国語のちがう民族や国家の間で、広く共通に使われている言語。商業語としての英語など。
    1. [初出の実例]「若し日本語が、国際語として英独仏語の如くならずとも」(出典:忘れ得ぬ人々(1939)〈辰野隆〉長谷川如是閑)
  3. 言語を異にする国家間および国民間に共通に使用させる目的で、考案・作製した人工の言語。既存の言語と無関係に考案したものと、既存のいくつかの言語の共通性に配慮し、またはある国の言語を基礎にして、改良を加えたもの、この二種の折衷などがある。エスペラントのほか、ボラピューク、イード、ノビアルなどが考案された。国際補助語。〔現代新語集成(1931)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際語」の意味・わかりやすい解説

国際語
こくさいご

母語の異なる民族間のコミュニケーションに用いる言語。それぞれの母語を尊重しつつ、あくまでその橋渡しをするものであることが理想である。しかし実際は、有力民族の言語が「国際語」と称され、弱小民族は心ならずもこれに従うのが常である。

 どの言語が国際語となるかは、政治、経済、文化の諸条件による。ヘレニズム時代の西アジアからエジプトにかけて、文法の単純化されたギリシア語コイネー」が使われたが、これは国際語の一つの典型といえる。東アジアでは19世紀中葉まで古代中国語の文語(漢文)が使われ、イスラム圏では現在でもコーランのアラビア語が共通の文語として機能している。ヨーロッパでは18世紀までラテン語、その後外交用語としてフランス語が台頭したが、第一次世界大戦ごろからはその地位を英語に譲るに至った。現在、英語圏の国民は、その母語が通商、学術、報道、さらにはインターネット通信のための国際語として広く用いられることで、結果的に他国民以上の便益を得ている。東欧圏では、冷戦時代にはロシア語が政治上の国際語であったが、冷戦終結後は英語、ドイツ語がこれにとってかわった。

 第二次世界大戦後、国家間の平等の原則が確立されるにつれて、単一言語が国際語の地位を占めるという状況は、国際政治の場では減少している。たとえば、2018年時点では、国際連合の公用語は6(国際連盟では英語、フランス語両語が「慣用語」だったにとどまる)、EU(ヨーロッパ連合)の公用語は24であり、通訳・翻訳の費用負担に苦しんでいるが、加盟国の言語の平等が優先された。

[泉 幸男 2018年9月19日]

計画語

文法、語彙(ごい)を整理して習いやすくした「計画語」を国際語に用いようという考えは、F・ベーコンやデカルトにさかのぼる。試験的に実用に供された初めての計画語は、シュライヤーJohann Martin Schleyer(1831―1912)が考案し1879年に発表したボラピュクVolapük(ボラピューク語)であった。その後ザメンホフが考案し、1887年に発表したエスペラントが、今日に至るまでもっとも広く使われた計画語である。

 従来これらは「人工語人工言語)」とよばれてきた。しかし、そもそも言語とは、すべて人間がつくり、規範を与えたものである。エスペラントなどは、言語全体が計画的につくられたところに注目して「計画語」とよぶのが正確である。ボラピュク以前に試作された計画語は、既存の言語とはまったく別の語彙体系をつくろうとしたものが多く、実用には適さなかった。

 ボラピュクやエスペラントのように実用に耐える計画語が登場したのちも、100を超える国際語試案が発表された。エスペラントに比べて、ラテン系諸言語の色彩を強めたものが多く、イタリア語などに似せるために文法、正書法の不規則を許容したものが目だつ。おもなものをあげてみる。L・クーチュラーが考案したイードIdo(1908年発表。以下同)、デ・バールEdgar de Wahl(1867―1948)が考案したオクシデンタルオクツィデンタルOccidental(1922)、O・イェスペルセンが考案したノビアルNovial(1928)、国際補助語協会(IALA:International Auxiliary Language Association)が考案したインテルリングアInterlingua(1951)。日本人のものとしては丘浅次郎(おかあさじろう)が考案したジレンゴZilengo(1889)があった。

[泉 幸男 2018年9月19日]

展望

人類が単一の国際語をもつのは、永遠の夢である。しかし、有力民族語(英語など)を全世界の国際語にしようとすれば、国際社会での不平等を招く。対案として、エスペラントのような計画語も提案されてきた。しかし、言語とは文化の総体であり、国力とナショナリズムの反映でもある。国家をもたぬ言語の限界が、エスペラントの現状にみてとれる。

 インターネット上では英語がほとんど「ひとり勝ち」の様相をみせる。華僑(かきょう)社会を含む中国文化圏では、北京(ペキン)語の地位向上が著しい。このような「大言語」の国際語化の動きと同時に、北部スペインのカタルーニャ語復権やフィリピンにおけるフィリピノ語(タガログ語を基礎とする)普及のように、民族アイデンティティを求めて弱小言語の地位確立もまた進んでいる。国際コミュニケーションのための言語は、利便性と大義名分を天秤(てんびん)にかけつつ、時代と状況に応じて選択されていくのであろう。

[泉 幸男 2018年9月19日]

『二木紘三著『国際語の歴史と思想』(1981・毎日新聞社)』『L・L・ザメンホフ著、水野義明編訳『国際共通語の思想――エスペラントの創始者ザメンホフ論説集』(1997・新泉社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「国際語」の意味・わかりやすい解説

国際語 (こくさいご)
international language

国際補助語という場合もある。人類が互いに通じない何千もの言語を用いていることの不便は明らかである。そしてフランス語や英語などのいわゆる自然語を準国際語として用いると,それを母語としない人々には不利になる。実際,これら自然語は長い歴史をもち複雑であって,それを母語としない人々には熟達しにくい面をもつ。そこで国際コミュニケーションのための人為的に考案された共通語=国際語の考えが,おもに近世以降種々に提出された。それはおよそ800ほどもあるとされる。

 まず,先験的に人類共通の概念を引き出して,それを数字やアルファベットや絵文字で表そうという案が19世紀まで種々考えられた。しかし,かえって複雑で,何が概念の先験的分類か定めるのも容易でなく,考案者とその周辺以外にはほとんど広まらなかった。しかし,現代におけるいくつかのコンピューター用言語は,一種の先験的国際語であるとも言えるが,その目的は人間と人間ではなく人間と機械との交信にある。

 それに対し,現実の古典語・近代語をもととした国際語を作る考えがある。初め1879年にドイツのカトリック聖職者シュライヤーJ.M.Schleyerにより考えられたのが〈ボラピュークVolapük〉で,自然語よりは簡単であるが,それでも文法はかなり複雑である。10年ほどはかなり活発に運動が行われたがやがて衰えた。これを改良したものに〈イディオム・ネウトラルIdiom-Neutral〉(〈中立的言語〉の意。1902年に辞典が出版される),〈ラティノ・シネ・フレクシオネLatino sine flexione〉(〈屈折なしのラテン語〉の意。1903年にイタリアの数学者G. ペアノが発表),〈インテルリングワInterlingua〉(〈国際語〉の意。上記〈ラティノ・シネ・フレクシオネ〉に改変を加えたもので1909年に発表),〈オクツィデンタルOccidental〉(〈西欧語〉の意。1922年にE.deバールが発表)などがあるが,いずれも成功しなかった。〈エスペラント〉は1887年にザメンホフによって発表された,今日まで残る唯一の人工国際補助語である。しかし,それも創始者の理想に反して,現在の使用範囲はごく限られている。〈エスペラント〉の改良案として作られた〈イードIdo〉(エスペラントで〈後継者〉の意。1907年にL.deボーフロンが発表)も成功しなかった。〈ノビアルNovial〉(〈新国際補助語〉の意。nov(新しい)にinternational(国際),auxiliary(補助),language(言語)のそれぞれの頭文字をつけた)は1928年にデンマークの言語学者イェスペルセンにより考案されたが,これも失敗した。また,人工語ではなく,現に使われている民族語(自然語)を改良して使いやすくしようという案もあり,その代表が30年にC.K.オグデンによって発表されたベーシック・イングリッシュであるが,これにも案外使いにくい面がある。

 そのほか現に用いられている広域的な共通語として,英語,フランス語などがなまった,交易語としてのピジン語(ピジン・イングリッシュ)やそれが母語と化したクレオール語があるが,西欧人から〈価値の低い〉言語とみなされ,より広くは普及しがたい。現状では,特に西側諸国では英語が事実上の準国際語となっているといえよう。
エスペラント
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百科事典マイペディア 「国際語」の意味・わかりやすい解説

国際語【こくさいご】

国際間で広く用いられる言語。中世の学問,カトリック界などでのラテン語,外交上のフランス語などもあるが,狭義には人為的に考案された,学習が容易な言語をさす。国際補助語,世界語とも。エスペラントのほか,イタリアの数学者G.ペアノによる〈屈折なしのラテン語〉とそれを改変した〈インテルリングワ〉などがあるがいずれも流布していない。→共通語
→関連項目イェスペルセン英語ザメンホフリチャーズ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際語」の意味・わかりやすい解説

国際語
こくさいご
international language

母国語を異にする人々が国際的な場面で理解し合うために考案された言語。エスペラント,イド語,ボラピュク語,ノビアールインテルリングアのような人工語と,基礎英語のように自然言語の単語数を制限したものとがある。人工語のなかではエスペラントが最も普及率が高い。どこかの国語が,国際的に広く共通語として用いられる場合にも,国際語と呼ばれることがあり,現在では英語が最もよく使われている。国際語は学習の容易さと表現力の豊かさとを同時にそなえなければならないが,自然言語は前者の条件に合わないことが多く,人工語は後者の条件の点で難がある。

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世界大百科事典(旧版)内の国際語の言及

【エスペラント】より

…やがてその匿名が彼の言語の名となった。国際語は国際的な相互コミュニケーションの必要から,とくに19世紀末以来さまざまな提案があったが,結局エスペラントのみが広く実用に供せられ,現在まで生き残った。これはエスペラント自体の優秀さと,そのよって立つ国際的平和主義の信念と,有能で熱心な追随者に恵まれていたことによるものであろう。…

【人工言語】より

…暗号術のような特殊な通信手段というよりも,思想や真理探究の方法にまで深くかかわった一種の文化改革であり,17世紀ヨーロッパにおいて本格的にその創造が開始された。この時期に人工言語が注目を浴びた背景には,(1)政治・宗教を巡る各国の抗争により,共通語として存続しえなくなったラテン語に代わる〈国際語universal language〉の必要性と,(2)あいまい性や非論理性を一掃しえない自然言語に代わり,哲学や科学の発展に寄与しうる論理的で精密な〈哲学的言語philosophical language〉の確立が叫ばれるに至った,ヨーロッパ文化全般の自閉的状況がある。
[歴史]
 1629年,学問の国際交流により知の革新と活性化をめざしたデカルト,メルセンヌらは,記号・音韻・意味の結び付きがきわめて恣意的である既成言語を批判し,数字のように精密に概念を表現できる哲学的言語の創出を提案した。…

※「国際語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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