翻訳|dynamite
ニトログリセリンを基材とした爆薬。名称は〈力〉を意味するギリシア語dynamisに由来。1866年A.B.ノーベルはニトログリセリンの強力な爆発威力に着目し,これをケイ藻土に吸収させてニトログリセリンよりも安全なケイ藻土ダイナマイトを発明した。75年にはニトログリセリンとニトロセルロースを混ぜてゲル状にしたブラスチングゼラチン(ゲルダイナマイトまたはニトロゲルとも呼ばれる)を発明,これはケイ藻土ダイナマイトより強力で,現在のダイナマイトの基本型となった。現在日本で用いられているダイナマイトは,〈ニトログリセリンまたはニトログリコール,あるいはこれらの混合物に窒素量12%程度のニトロセルロースを配合してできたニトロゲルを6%以上含むもの〉と定義されている。
アメリカでは,ニトログリセリンをゲル化せずに硝酸ナトリウムや木粉などの活性吸収剤に吸収させたストレートダイナマイトや,硝酸ナトリウムの代りに硝酸アンモニウムを用いたアンモニアダイナマイトなどの混合ダイナマイトも用いられている。これらは製造,取扱いが危険なため,日本では製造されていない。またケイ藻土ダイナマイトは今日ではまったく用いられていない。
ニトロゲル含量が20%以上で薬質が可塑性を示す膠質(こうしつ)ダイナマイトと,ニトロゲルが6~20%で薬質がぼろぼろしている粉状ダイナマイトがある。ニトロゲル系ダイナマイトには,ニトロゲルそのものの松ダイナマイトのほかに,硝酸アンモニウム,硝酸カリウム,硝酸ナトリウムなどの酸化剤,デンプン,木粉などの可燃剤,ニトログリセリンの代替物,膠化助剤,成形助剤としてのニトロ化合物,さらに爆発温度を下げ,火炎の発生を防ぐための減熱消炎剤(食塩,塩化カリウムなど)を含むものがあり,桜,桐,榎(えのき),桂,梅などの植物の名を冠した名称で呼ばれる。おもな種類の配合組成を表に示す。一般にはニトログリセリン含量の多いダイナマイトほど強力であるが,ニトログリセリンの代りに硝酸アンモニウムと木粉との組合せ成分で置き換えても威力はそれほど下がらない。以前はダイナマイト原料としてニトログリセリン単味が用いられたが,現在ではニトログリセリンとニトログリコールO2NOCH2CH2ONO2の6対4混合物が用いられている。ニトログリセリンは冬季に凍結してダイナマイトを危険な状態とするので,不凍剤としてニトログリコールが加えられた。その後,石油化学的製法によるエチレングリコールの価格が安くなり,ニトログリコールの価格も下がったので,ニトログリコールの混入割合が増加した。しかし,ニトログリコールは蒸気圧が高く,その毒性が問題となったので,混入割合は現在のものに落ち着いた。ニトログリコールの混入により,ニトロセルロースのゲル化速度が速くなりダイナマイト製造工程の一部がより安全となった。
ダイナマイトの製法はまずニトログリセリンとニトログリコールの混合物にニトロセルロースを混ぜて膠化させ,ニトログリセリンより安全なニトロゲルをつくる。ニトロゲル以外のダイナマイトの配合成分は混和剤といい,混和剤とニトロゲルとを捏和(ねつか)して膠質ダイナマイトを,混合によって粉状ダイナマイトを製造する。膠質ダイナマイトでは,捏和薬を圧伸機で圧伸し,所定の口径と薬長をもった棒状に成形して包装する。この作業は以前は手作業で行われていたが,現在では大部分が自動製造機械によっている。粉状ダイナマイトも現在では自動塡薬(てんやく)包装機械により塡薬と包装が行われている。
(1)最大の特徴はその強力な爆破威力である。ニトログリセリンやダイナマイトが登場するまでの唯一の爆破薬であった黒色火薬に比べて5倍の爆破力があるといわれた。松ダイナマイトの爆速は約7000m/s,爆発ガスの膨張による仕事効果はピクリン酸の約2倍である。(2)後ガスがよい。爆発の際に発生する後ガスの中に有毒成分が多く含まれていると,とくに坑内での発破作業の能率を著しく低下させる。ダイナマイトは硫黄や塩素のような有毒元素成分を含まず,すす(煤)を出しやすい芳香族化合物もあまり含まず,酸素バランスがゼロに近く,また強力な爆発性をもつために後ガスがよい。したがってトンネル掘進発破などでは好んで使われてきた。(3)殉爆性がよい。ふつうダイナマイトは発破孔の中に複数装てんされて用いられる。一端のダイナマイト薬包に雷管がとりつけられており,これを親ダイという。それ以外のダイナマイトは増(まし)ダイと呼ばれる。親ダイと増ダイまたは増ダイと増ダイとの間にすき間ができることがある。すき間はできないように努力するが,たとえできても爆発が確実に伝わることが望ましい。すき間が大きくても爆発の伝わる爆薬を殉爆度のよい爆薬という。(4)ダイナマイトのうち,硝酸アンモニウムを含まないものは耐水性がよい。これを含むダイナマイトでは硝酸アンモニウムに特殊な処理を施したり,包装法に吸湿・固化を防ぐ配慮がされている。
(1)自然分解性の硝酸エステルであるニトログリセリンやニトロセルロースを含んでいるので自然分解の恐れがあり,火薬類取締法によって安定度試験の実施が義務づけられている。(2)老化現象がみられる。松ダイナマイトを例にとると,製造直後には7000m/sあった爆速が貯蔵中に2000m/sまで低下してしまうことがある。ダイナマイト中に含まれていた気泡が貯蔵中に抜けてしまうためといわれる。(3)死圧現象といって,ある程度以上の圧力をかけると爆発しなくなる現象を生ずる。(4)ニトログリセリンがダイナマイトから浸出することがある。浸出したニトログリセリンは危険なので細心の注意をもってふきとり,燃やすかアルコールカリ液で分解させる。浸出を起こしたダイナマイトは直ちに消費するか廃棄する。(5)成分であるニトログリコールやニトログリセリンには毒性がある。ダイナマイトはニトログリセリンより安全ではあるが,それでも新爆薬である硝安油剤爆薬や含水爆薬に比べて打撃や摩擦に対してより鋭敏である。(6)凍結は以前は重大問題であったが,ニトログリコールが使われている現在では問題とならなくなった。
以上の理由から近年ダイナマイトは上記2種の新爆薬にとって代わられつつある。
執筆者:吉田 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
スウェーデンのノーベルが発明した、ニトログリセリンを含有する爆薬の総称。混合ダイナマイトとニトロゲル系ダイナマイトがあり、アメリカでは前者が、ヨーロッパや日本では後者が使われている。日本ではニトログリセリンまたはニトログリセリンとニトログリコールの混合物にニトロセルロースを配合してできたニトロゲルが6%を超えるものをダイナマイトとよんでいる。ダイナマイトの語は、その強力な爆発威力により「力」「運動」を意味するギリシア語のデュナミスdynamisからつくられた。
[吉田忠雄・伊達新吾]
1846年イタリアのソブレロによってニトログリセリンが合成され、その爆発威力が、それまで用いられてきた黒色火薬に比べて格段に強いことがわかった。ノーベルは、火をつけただけでは簡単に爆発しないニトログリセリンを確実に起爆させる方法として雷管を発明(1864)した。ニトログリセリンはわずかな打撃で爆発し、非常に危険なので、これを珪藻土(けいそうど)に吸収させて、より安全な珪藻土ダイナマイトを1866年に発明した。
珪藻土ダイナマイトは安全ではあったが、爆発威力はニトログリセリンの70%程度で弱いという問題点が残っていた。1875年ノーベルは、ニトログリセリンと窒素量が12%台のニトロセルロースを混ぜるとゴム状またはゼラチン状の塊となり、これが珪藻土ダイナマイトより強力な爆発威力をもつことを知り、ゼラチンダイナマイト(ニトロゲル)と名づけた。ヨーロッパや日本ではこのニトロゲルを基剤としたダイナマイトが発展し、ニトロゲルに硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、木粉、デンプン、ニトロ化合物などの混和剤を加えたダイナマイトが主流となった。
アメリカでは、ニトロセルロースを用いずニトログリセリンを直接混和剤と混ぜた混合ダイナマイトがおもに用いられている。ストレートダイナマイトは混和剤として硝酸ナトリウムや木粉、デンプンその他を用いたものであり、アンモニアダイナマイトはそのほかに硝酸アンモニウムを用いたものである。珪藻土ダイナマイトは、前述のようにニトログリセリンを珪藻土に吸収させたものである。しかし、これらの爆薬は感度が鋭感であり、また、貯蔵温度の上昇などによりニトログリセリンが抜け出す危険性があるため、日本では製造されていない。
混和剤としてニトロセルロースを用いることによってダイナマイトのコストを下げ、可塑性を増して取扱いを容易にし、爆発威力を調節し、劣化を抑えるなどの利点が得られた。ニトロゲル含量が6~18%のものは粉状で粉状ダイナマイトとよばれ、18%以上のものは膠(にかわ)状で膠質(こうしつ)ダイナマイトとよばれる。日本ではダイナマイトは松、桜、桐(きり)、榎(えのき)、桂など植物の名を冠して区別されている。
膠質ダイナマイトは、ニトロゲルを混和剤と練り混ぜて、棒状に成形し、紙で包装してつくられる。粉状ダイナマイトはニトロゲルを混和剤と混合し、あらかじめつくっておいた紙筒に填薬(てんやく)し、口締めしてつくられる。
[吉田忠雄・伊達新吾]
ダイナマイトの特長は、爆発威力が大きいこと、爆発でできるあとガス(後ガス)がきれいであること、隣の爆薬包をたとえ間隙(かんげき)があっても伝爆させる殉爆性がよいことなどである。このため20世紀後半ごろまで工業爆薬の王座を保ってきた。
しかし、いくつかの問題点もある。ニトログリセリンやニトロセルロースのような硝酸エステルを含有しているため安定性に問題があり、安定度試験が法規で義務づけられている。また、貯蔵中に爆速が小さくなる劣化現象や、ある程度以上の圧力をかけると爆発がおこらなくなる死圧現象がある。さらに、ニトログリセリンが凍結して危険な状態となることがあり、現在はニトログリコールが入っているためにこの心配はなくなったものの、ニトログリコールやニトログリセリンには毒性があり、また、ニトログリセリンがしみ出す危険性もある。このような問題のため、1980年代前半には硝安油剤爆薬や含水爆薬がダイナマイトにとってかわられ、ダイナマイトの生産量は産業用爆薬類全体の数パーセントにすぎなくなった。
[吉田忠雄・伊達新吾]
『山川道雄編『産業火薬』(1982・日本産業火薬会)』▽『中原正二著『火薬学概論』(1983・産業図書)』▽『火薬学会編、田村昌三監修『エネルギー物質ハンドブック』第2版(2010・共立出版)』▽『Paul W. CooperExplosives Engineering(1996, Wiley-VCH, Berlin)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
ニトログリセリンを含有する工業爆薬の商品名として,A.B. Nobel(ノーベル)が命名したが,現在は普通名詞となっている.日本では,ニトログリセリン7% 以上含有するものをダイナマイトと称し,これ以下のときは爆薬といっている.ダイナマイトは状態により,こう質,半こう質,粉状に分けられる.Nobelがはじめてダイナマイトを製造した1866年当時は,ニトログリセリンとけいそう土とを混合したもので,混成ダイナマイトといわれるものであったが,現在このような形のものは用いられず,ニトログリセリンと綿薬をこう化したニトログリセリンゲルの形で混入されている.ニトログリセリンと綿薬のみでできたものを松系ダイナマイト,これに酸化剤として硝石を加えたものを桜系ダイナマイト,硝安を加えたこう質ダイナマイトを桐系ダイナマイトという.このほか,炭鉱用にこう質の梅系ダイナマイト,粉状の硝安ダイナマイトなどがある.1955年ころから台頭してきたアンホ爆薬のために,ダイナマイトは衰退しつつあるのが世界的傾向である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…クリミア戦争(1853‐56)時に爆薬の製造に従事していた父親のエマニュエルEmanuelの事業を助け,戦後59年一家がスウェーデンに戻ってからは爆薬の改良に専念するようになる。その結果,これまで爆薬として製造してきた,爆発しやすく取扱いの不便な液状ニトログリセリンをケイ藻土にしみこませることにより,安定した取扱いの容易な可塑性の固形爆薬とすることに成功,これを〈ダイナマイト〉と名づけて67年にスウェーデン,イギリス,アメリカで特許をとった。さらに雷汞(らいこう)を起爆剤とした発火装置,コロジオンにニトログリセリンを配合したゼラチン状の〈特殊ダイナマイト〉,無煙火薬などをつぎつぎに発明,約355種の特許をとり,スウェーデン,ドイツ,イギリス,スコットランドなど世界各地に15の爆薬工場を経営,のちこれらを基盤にノーベル・ダイナマイト・トラスト会社を創設,巨万の富を築き,また,バクー油田の開発でも財をなした。…
※「ダイナマイト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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