コレラ菌(読み)これらきん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コレラ菌」の意味・わかりやすい解説

コレラ菌
これらきん
[学] Vibrio cholera Pacini

腸内細菌類似のビブリオ属の基準種で、グラム陰性のコンマ状に彎曲(わんきょく)した桿菌(かんきん)。1本の鞭毛(べんもう)が一端にあり、運動性がある。胞子芽胞(がほう))および莢膜(きょうまく)(細菌細胞の外側にある粘性の厚い層)は形成しない。通性嫌気性で、14℃から42℃で生育するが、生育最適温度は37℃である。また、最適水素イオン濃度指数(pH)は8.0~8.5で、肉汁(ブイヨン)寒天培養基でよく発育する。扁平(へんぺい)、湿潤、光沢のある半透明なレンズ状の集落(コロニー)を形成する。タンパク質分解力が強く、ゼラチンを液化する。トリプトファンを含むペプトン水培地を用いて培養すると、トリプトファンからインドールをつくり、硝酸塩を還元して亜硝酸塩をつくる。この両者でニトロソインドールを生ずるため、濃硫酸数滴を添加すると、ただちに深紅色を呈する。これをコレラ赤反応という。コレラ菌は高温や薬剤に弱く、55℃では10分間で死滅し、1%石炭酸で5分間、1万倍の塩酸や硫酸では数秒間でそれぞれ死滅する。しかし、自然状態では条件によって異なり、下水で9日間、海水で21日間生存したという。免疫学的にはA群とB群に分類され、A群には亜群ⅠからⅥまである。4生物型に分類されたうち、真正コレラビブリオとエルトールビブリオに病原性がある。

 なお、コレラ菌は幅0.4~0.6マイクロメートル、長さ1.0~3.1マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)である。1854年にイタリアの解剖学者パチニーFilippo Pacini(1812―83)によって発見され、1883年にドイツの細菌学者コッホが分離、培養に成功した。このコレラ菌は、1905年にエルトール型が発見されてから、アジア型または古典コレラ菌とよばれるようになった。すなわち、真正コレラビブリオである。

[曽根田正己]

『見市雅俊著『コレラの世界史』(1994・晶文社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例