中世ドイツの叙事詩人。生涯は不詳。市民階級出身で、修道院の付属学校で学び、シュトラスブルクの司教に仕えたといわれる。唯一の作品『トリスタンとイゾルデ』(1205~15ころ)は、当時流布されていたトリスタン伝説を、ブルターニュのトマの作品(断片のみ残存)をもとにまとめたもの。主人公トリスタンは伯父マルケ王の求婚の使者としてアイルランドに赴き、王女イゾルデを伴っての帰途、船中で誤って媚薬(びやく)を飲み恋に陥る。イゾルデの結婚後も王の目を盗んであいびきを重ね、策を弄(ろう)して王を欺く。事が露見し、追放後は同じ名の白い手のイゾルデと結婚するが、金髪のイゾルデを忘れかね悶々(もんもん)の思いで日を過ごす。ここで作品は未完のままに終わっている。中世ラテン詩学の巧みな修辞法を駆使し、音楽的な響きをもつ洗練されたことばで、愛の殉教者の喜びと苦悩を歌っている。ワーグナーの同名の楽劇はこれを素材としている。
[伊東泰治]
『石川敬三訳『トリスタンとイゾルデ』(1976・郁文堂)』▽『佐藤輝夫著『トリスタン伝説 流布本系の研究』(1981・中央公論社)』
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