日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゴースト・ダンス」の意味・わかりやすい解説
ゴースト・ダンス
ごーすとだんす
ghost dance
19世紀後半に北米先住民(アメリカ・インディアン)の間におこった千年王国論的な宗教運動。1870年にネバダ州の先住民パイユートのウォボカという予言者(救世主)によって始められた。ゴースト・ダンス(幽霊踊り)とよばれる儀礼を行うことによって、死者の霊がよみがえり、バッファローの大群が再来し、白人は消滅し、昔の楽園がもたらされると信じられた。初めは一部のインディアンの間ではやっただけであったが、1886年にアパッチの首長ジェロニモが降伏するなど、インディアンの白人に対する武力抵抗が最終的に敗北するとともに、1890年、経済的困窮、人口減少に苦しむ大盆地インディアン、平原インディアンの間に大流行した。ゴースト・ダンスは、メラネシアのカーゴ・カルト(積み荷崇拝)と同じく、圧倒的な西欧の武力と文化に押しつぶされた先住民が、呪術(じゅじゅつ)宗教的な形で伝統的固有文化を取り戻そうとする一種の土着主義運動であり、本来は平和的なものである。しかし、その宗教的情熱を恐れた白人によって弾圧され、1890年には、サウス・ダコタ州のウンデッド・ニーでゴースト・ダンスに集まっていた先住民ダコタ(スー)に対する大虐殺が行われた。これ以後、インディアンの信仰は、幻覚作用をもつサボテンの一種を食べて昔の楽園の幻想をみるペヨーテ信仰といった、より逃避的な形をとるようになった。
[板橋作美]