日本大百科全書(ニッポニカ) 「サウンドスケープ」の意味・わかりやすい解説
サウンドスケープ
さうんどすけーぷ
soundscape
音風景。カナダの作曲家マリー・シェーファーRaymond Murray Schafer(1933―2021)が提唱した概念。音(sound)と風景(landscape)からの造語。シェーファーは1977年『世界の調律――サウンドスケープとはなにか』The Tuning of the Worldを著し、コンサート・ホールと日常空間との間にある音楽と音の境界を取り去り、芸術音楽同様に美的聴取の対象として音環境をとらえ、その包括的な研究を行うことを提案した。サウンドスケープ研究は最終的にサウンドスケープ・デザインへと至るものと考えられ、社会の音環境の改善を目ざす。
シェーファーは世界サウンドスケープ・プロジェクトを組織し、1970年代を通じて農村や都市、港などのサウンドスケープ調査を多数行った。彼はサウンドスケープ中の多様な音現象を「信号音」「基調音」(地域の音環境における「図」と「地」)に分け、「信号音」のなかでもとりわけ、その地域の共同体のアイデンティティを特徴づける音を「象徴音」とよぶ。サウンドスケープ調査は、これら3種類の音現象が、どのように音環境を構成しているかを探ることが基本となる。そのためには単に音環境に耳をすまし記録するばかりではなく、住民への聞き取りや歴史的文献の調査も欠かせない。調査されたサウンドスケープはソノグラフィーsonographyとよばれる視覚的な標記法により記述される。ソノグラフィーには、従来の地図制作の手法を流用し、環境音の音圧レベルを等高線のように記述する等音圧地図や、市街空間での音響的活動をマッピングするサウンド・イベント・マップ、また工場や鉄道など特徴的な基調音を視覚化するサウンド・プロフィール・マップなどがある。
今日、音環境に関するエコロジー思想ともいえるサウンドスケープ思想を受けた活動は世界的には低調だが、日本ではシェーファーの主張は広く受け入れられ、環境庁が1996年(平成8)に「残したい日本の音風景百選」を選定するなど、諸外国に比べてサウンドスケープ思想の定着は著しい。
[増田 聡]
『R・マリー・シェーファー著、鳥越けい子・小川博司・庄野泰子・田中直子・若尾裕訳『世界の調律――サウンドスケープとはなにか』(1986・平凡社)』▽『鳥越けい子著『サウンドスケープ――その思想と実践』(1997・鹿島出版会)』▽『特集「サウンドスケープ」(『現代のエスプリ』354号・1997・至文堂)』